プロ野球トライアウトの後に深刻セカンドキャリア問題
プロ野球12球団合同トライアウト(13日、タマホームスタジアム筑後)が終了、参加した48人の戦力外の男たちに待ち受けている次なる人生の関門がセカンドキャリア問題だ。新しい球団から声がかかったのは、ここ2年続けて3人だけ。大多数の選手は第2の人生に歩み出さねばならない。今回のトライアウトでは、企業などのセカンドキャリアの勧誘を行う関係者が会場から締め出された。NPB、選手会側も、試行錯誤しているが、毎年、約130人以上の選手がユニホームを脱ぐ現状を考えると深刻な問題は残っている。
企業の人事担当者は会場パスをもらえなかった
タマホームスタジアムの出入り口付近には、混乱を避けるように柵が設けられていたが、その外でトライアウトを終えた選手を待ち構えていたのはファンだけではなかった。各球団のユニホーム姿のファンに紛れて、スーツ姿の男性たちが“最後のテスト”に挑戦した選手たちをつかまえては、企業の資料や名刺を配っていたのだ。 各企業の人事担当者の入社勧誘である。 元巨人の内野手で、現在、日本リアライズ株式会社で選手の再就職のサポート事業を行っている川口寛人さん(33)も会場の外で活動をしていた。 クラブチームから育成ドラフトで巨人に入団するも、たった1年でクビになった自らの体験をもとにプロアスリートのセカンドキャリアの道先案内人となる事業を進めていて、トライアウト会場にも、毎年、足を運ぶ。 「各企業のリクルート関係の方々がたくさん来ていましたね。プロ野球経験者という人材を求める企業は増えています。ひとつのことを突き詰めた熱意や体力、そしてチームをまとめてきたリーダーシップなどが評価されているんです。でも、そういう企業側の考えが、うまく選手側に伝わっていません。だから僕らがマッチングをサポートしようとしているのですがね。NPB、選手会、企業が、うまく歩調を合わせていく必要があります」 実は、今回はプロ野球、独立リーグ、社会人など野球関係者以外には、会場入りを許可するパスは配られなかった。これまでは、セカンドキャリアの受け皿となる各種企業だけでなく、競輪、クリケットなど、他スポーツ団体の関係者にも、会場に入って選手と接触可能なパスと連絡先の書かれた出場選手の名簿が配られていた。 だが、今回は「会場の外で終わってから活動をしてもらえれば」と事実上、締め出された。 選手会の森忠仁事務局長が説明する。 「トライアウトは、選手が、もう1度NPBでのプレーを目指す真剣勝負の場所。そのトライアウトが始まる前から次の就職について、あれこれ話をされるというのは、ちょっと本来の趣旨とは違うのではないか、という議論があって、今回は遠慮を願いました。トライアウト後にどうぞ、ということです。選手のセカンドキャリアについては、選手会も取り組んでいる問題です。イーキャリアさんと組んで再就職に関する窓口を作っていますが、退職金制度も含めて、今後、検討していかなければならない問題だと考えています」 確かに就職勧誘を行いたい企業などにパスを出してトライアウトの場の空気が変わるのは、本来の趣旨からはかけ離れる。無差別に入場を許可すれば、ブラック企業などの出入りを選別することも難しいだろう。 選手会は、2014年からソフトバンクグループの転職応援サイト「イーキャリア」などを運営するSBヒューマンキャピタル株式会社と組み、引退後のセカンドキャリアをサポートする「イーキャリアNEXTFIELD」をスタート。 元プロ野球選手を求める登録企業は、例年増加、現在、約900社の企業が登録されているという。また国学院大と組み、引退後に教員やスポーツ指導者となるための資格獲得をサポートする取り組みも始めた。 だが「イーキャリア」を利用した再就職例は、それほど多くない。形は作ったが、実態としては機能しておらず、引退選手のセカンドキャリア問題に確固たる道筋が確立されていないのが現状だ。再就職関係者をトライアウトから締め出す前にNPB、選手会がやるべき問題は山積みだろう。