天海祐希のパブリックイメージを覆す? 新作舞台に演出・KERAが意欲
天海祐希や井上芳雄などの人気俳優たちが、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の演出で、ロシアの巨匠・チェーホフの代表作に挑む、KERA meets CHEKHOV Vol.4/4『桜の園』。新型コロナ禍によって、一度は上演前に中止されたが、キャストを入れ替えて実現することとなった。 【写真】『桜の園』キャスト一覧 ■ 「終始ゲラゲラ笑えるという世界ではない」 変わりゆく時代の波に翻弄される人々の姿を、「悲喜劇」ともいえる絶妙なタッチで描いたアントン・チェーホフ。KERAは2013年から「チェーホフの4大戯曲」と呼ばれる代表作の全演出に挑戦し、この『桜の園』が最終章となる。タイトル通り、桜の木々に囲まれた屋敷を舞台に、没落した貴族の一族と周囲の人々の関係が、季節とともに変化していく様を描いていく。 現在絶賛稽古中の本作。10月某日おこなわれた会見でKERAは、チェーホフ戯曲について「カーチェイスのシーンをまったく見せず給油しているシーンだけを見せて、どれだけ熾烈なカーチェイスだったかを感じさせる、そんなおもしろさなんです。僕は当初演劇に恥ずかしさを感じていて、ずっと『どうやって恥ずかしくない演劇をやればいいんだろう?』というのを探していたけれど、チェーホフはその一つの方法を提示してくれたような気がします」と魅力を語る。 『桜の園』は、チェーホフ自身は「喜劇」と銘打っているものの、終始ゲラゲラ笑えるという世界ではない。この点については「ここに出てくる(貴族の)兄妹は、みんなに『このままじゃまずいよ』と言われているのに、本当になんの策も練らない(笑)。その極端な愚かさは僕の書くナンセンス(・コメディ)に極めて近くて、すごく喜劇的」と指摘しつつ「作品を壊して自分の方に引き寄せるのではなく、チェーホフがなにをおもしろがっていたのかを考えながら、現代の人たちにもそれが伝わるようにしたい」と狙いを明かした。 ■ 「天海さんに、この役をやってもらうおもしろさ」 天海が演じるのは、その愚かな兄妹の姉・ラネーフスカヤ。享楽的でしどけないという、天海のパブリックイメージとは正反対の役だ。「完全無欠に近い人を演じることが多い天海さんに、この役をやってもらうというおもしろさはすごくある。低いトーンでしゃべることが多い方ですけど、あえて高音も駆使して、なるべく広い声域を使ってセリフを出すのはどうだろう? という話をしているところです」と、ミュージシャンの顔も持つKERAらしいプランを。 古典、しかも翻訳劇ということでハードルの高い印象がある『桜の園』だが「どんどん嫌なものが近づいて来ているような、のっぴきならないムードがある今の時代だと、お客さんとなにか共有できるものがあるのでは」と予測したうえで「我々と同じように浅はかでダメな人たちが右往左往するさまを、あまり難しく考えずに楽しんで観てください」と観劇を呼びかけた。 そのほかには大原櫻子、荒川良々、山崎一、浅野和之などが出演。12月の東京公演を経て、大阪公演は2025年1月6日~13日に「SkyシアターMBS」(大阪市北区)にて。チケットはS席1万2000円、A席9000円で、11月9日から発売開始。大阪のあとには福岡公演もあり。 取材・文・写真/吉永美和子 ※文章内の表記に誤りがあり一部修正しております。