スマホ時代にはない悦楽…100年前に吉田初三郎が描いた“日本地図”に感じるもの
先日、ある古書市で初三郎が湘南を描いた鳥瞰図が売り出されていて、なんと2万2000円の値段がついていた。印刷された地図がその値段である。初三郎人気は高い。以前から初三郎の仕事に注目していた荒俣宏氏によると、ここまでコレクターがつかなかった昭和50年代(1970年代後半~80年代前半)頃には1枚300円から800円くらいで初三郎の鳥瞰地図が買えたそうである。 僕は初三郎の鳥瞰地図は持っていないのだけれど、彼が地図や挿画を手がけた『鐵道旅行案内』を持っていて、ときどき眺めているが、これも展覧会に出ていた。 僕が持っているのはこのうちの1冊で、大正13年発行のもの。鉄道に沿った日本全国のガイドブックで、横長の判型、400ページほどの厚さで、文字ページ(スミ版のみ)と図版ページ(色刷)が基本的に交互にくる。版元は鐵道省で、配布したものもあるのか、価格のついていないものと、出版社の博文館が発売したものがあり、こちらは3円20銭と書かれている。
一部、図版のページを見ていこう。こういう本がちょうど100年前に出版されていたことにも感動してしまう。 鳥瞰図ばかりでなく、各地名所の絵が載っていて楽しめるのもいい。 各地の名所や季節ごとの見どころも書かれている。例えば、東京の月毎の観光ポイントに関しては、1月の項目には初日の出はどこで見られるか、5月ならツツジの名所はどこか、6月なら花菖蒲の名所はどこかなど詳細に書いてある。
初三郎の資料は他にもいくつか持っているので、ここで少しお見せしておこう。 スマホを携帯することによって、いつでも正確で見やすい地図、しかも自分のいる場所までわかる機能はそれはそれで本当にありがたいのだが、正確さを超えたダイナミックさとか、見るだけでワクワクさせる悦楽のようなものが初三郎の図にはあると思えるのだ。 Beautiful Japan 吉田初三郎の世界 会場:府中市美術館 会期:~2024年7月7日(日) 開館時間:10:00~17:00(入場は~16:30まで) 観覧料:一般800円
TEXT=鈴木芳雄