『虎に翼』脚本家の吉田恵里香にインタビュー。朝ドラで生理を描いた理由とは?
存在しない者として扱われてきた人たちを描きたい
存在しないとされる人々や、その思いを透明化しないという考え方が全編を通して貫かれているように見える。 「題材を選ぶときに最初は何者でもない人の話を書きたいと思ったんです。でも、三淵嘉子さんの人生を知って、法律について勉強していくうちに、どんどん惹かれていきました。さらに『法律をテーマにしたら、存在しない者として扱われてきた人たちをなるべく描くということをド直球でやれるんじゃないか、いろいろな問題提起ができるんじゃないか』と思ったんです」 経済的にも愛情面でも恵まれた家庭の「持てる人」寅子を軸に、「持てない人々のドラマ」を誰に託すか考えた中で、個性豊かなキャラクターが誕生。やりたいドラマをそれぞれに当てはめていったのだという。 「私はアニメや連ドラを10話や13話の尺で描くことが多いんですが、朝ドラの半年間の尺だったらもっと描けるんじゃないかと。しかも、今回は『恋せぬふたり』『生理のおじさんとその娘』でご一緒した、私のことをわかってくれているスタッフたちとともにやれる超絶ラッキーな現場。だからこそ、差別や人権のことをド直球でやれる。こんな機会はもう一生ないと思うんですよ。そういう意味で悔いなくやろうと思っています」
知らぬ間に差別に加担させられる社会構造への怒り
吉田さんが差別への違和感や憤りを抱くようになったのは、幼少期から。 「父方のおばがフランス人と結婚したことや、ここで話す許可を得ていますが、母が英会話学校をやっていて同性愛者の先生がいたこと、お父さんが蒸発してしまった子をわが家が預かったこともありました。思い返せば差別を身近に感じることが多かったのかも。 その一方、私が中高生の頃には嫌韓ブームがあって、書籍なども流行っていて、『こんなに悪く書かれるのは、きっと悪い部分もあるんだろう』と漠然と信じ込まされていた時期もあった。それが違うと気づいたとき、『知らぬ間に差別に加担させられる、社会構造の問題じゃないか』と思ったんです。 それで、大人に対しての怒りを抱くようになって、気づいたら自分が大人になってバトンを渡される立場になっていた。だったら、私はエンタメ業界に身を置いているのだから、自分ができることをまずやろうと考え始めたのが25~26歳のときでした」 平等、人権をテーマにすることで、偽善だと言われることもあるという。それでも「私が描くことが正解とは思っていない」「今の自分がやれる限りのことをやっているだけ」「議論のきっかけになれば」と言う吉田さん。その覚悟を受け止め、バトンをつなぐことが、私たち視聴者一人一人に託されたことなのかもしれない。 Illustration:Yoshimi Hatori Interview & Text:Wakako Takoh Edit:Miyu Kadota