【大学野球】受験勉強の合間の地道な努力で「一浪、1年春デビュー」 “元甲子園球児左腕”東大・松本慎之介
神宮で投げることを目標に
【5月25日】東京六大学(神宮) 立大3-0東大(立大1勝) 覚悟が違う。大学デビュー戦の「9球」には、神宮のマウンドへの思いが詰まっていた。 立大1回戦。東大・松本慎之介(1年・国学院久我山高)が3点ビハインドの9回表に三番手として救援。1イニングを無失点に抑えた。一死から味方の失策で走者を許したが、次打者を併殺打。リズムの良い投球だった。 「個人的には良い結果なんですけど、チームとして負けたことが悔しい。緊張? 結構、興奮していたので、そっちのほうが強かった」 元甲子園球児。大舞台を踏んできただけに、堂々としたコメントである。3月10日に東大理科二類に合格。東大で1年春からリーグ戦でプレーするのは、珍しいケースだ。
国学院久我山高では背番号10を着け、3年春のセンバツ4強進出に貢献。139キロ左腕は「野球もそうですし、生物に興味があり、広い視野で学べるのが農学部。頭の良い人たちと勉強してみたいのもあった」と東大を志望した理由を明かした。現役では赤門を突破できず、1年の浪人生活を経験した。 「受かりたい。神宮で投げることを目標に、それをモチベーションにしてきました。2浪? 1年で切り上げるつもりでした。東大以外でしたら、野球は続けていないです」 通常であれば、浪人組は1年間、体力づくりがメイン。しかし、松本の意識レベルは一般的な浪人生とは違った。週1回、ジムでトレーニングを励み、筋力が落ちないようにしてきたという。受験勉強の合間の地道な努力こそが「一浪、1年春デビュー」を実現させた。4月の加入から約2カ月で、自己最速まであと2キロに迫る137キロに戻り、コンディションも万全の状態から「90%」まで上がってきているという。「逆に良くなった部分もある」と、手応えを語る。
「勝てる投手になりたい」
立大1回戦からベンチ入りさせた東大・大久保裕監督は「オープン戦でも投げられるようになってきたので、良い機会かと思いました。もともと良いものを持っており、神宮に慣れる意図もありました。こんなものではありませんが、スタートとしては良かった」と高評価。今秋の先発構想があるか問われると、大久保監督は「十分ある」と明言。松本は言う。 「4年間で優勝したいのが一番の目標なので、ゲームを作って、勝てる投手になりたいです」 東京六大学リーグ戦は1925年秋に創設され、今年で99年だが、東大は唯一、優勝経験がない。過去最高成績は46年春の2位。甲子園で3試合に登板し、勝つ喜びを知る左腕が東大野球部の歴史を塗り替える覚悟だ。高校在学中にはイチロー氏から指導を受け「野球に対する姿勢が印象に残っている」と、超一流の現場に触れてきたのも、貴重な財産だ。1年生ながら、松本にはすでにチームを背負う自覚がある。今後の登板から目が離せない。
週刊ベースボール