「答えが出ない舞台」 舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』ハリー役の平方元基にインタビュー
ーーご自身では、平方さんハリーと、吉沢さんハリーとの違いは何だと思いますか? 平方 よく聞かれるので、(吉沢)悠くんともよく話すんですけど、結局はお客様がどう観てくれるかなので、僕たちはその答えが分からなくて。「1年目とも2年目とも違って新しかった」という声は届くのですが、何が新しいのかは分からないんですよ。劇場って、その日そのときにしか起きないことばかりが起こる場所ですからね。 ……まぁ、それでも敢えて言うなら悠くんの方が、イギリス紳士っぽいというか、ちょっとクレバーな印象があるかな(笑)。でも詳しくは他の人に聞いたり、ご自身で見比べたりしてみてほしいです。 ーー小説や映画と違い、舞台ではハリー・ポッターは37歳で、父親になっていますが、本作でのハリー像について教えてください。 平方 小説と映画と舞台と3つを並べられることが多いですけど、基本的に小説から始まって映画になっていますし、小説から始まって舞台になっているんですよね。つまり、帰り着くのは小説なんです。 映画版だと画力が強くて、視覚的な要素が入ってきて、それはそれで楽しいんですが、小説は文字だけなので、余計に読む側の想像力で物語が膨らんでいく。改めて小説を読み返すと、ハリー・ポッターというキャラクター自体、こじらせてるところがたくさんあるし、想像よりもダークで大人も十分楽しめる文学だなと思うんです。 舞台はその小説の19年後を描いていますが、小さなヒーローの男の子が頑張って悪を倒す……という部分ではない人間ドラマが色濃く描かれている点がポイントかなと思いますね。 ーー2024年8月9日に、総観客数100万人を突破しました。それほどの人がこの作品を観るのはなぜでしょう? どんなところに惹かれているのでしょう? 平方 答えが出ない舞台だからかな。 だいたいどんな演劇作品でも、1番最後のシーンで「結末」が見えるじゃないですか。でもこの舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』にはそれがない。「これで息子とうまくやっていけるんだろうか?いけないんだろうか?」ともやもやする人もいると思うんですけど、こちらとしては答えを出していないし、そこがこの作品のいいところだと思います。 さまざまな賞をとっている作品ですけど、技術面で言うと、照明がすごいんですよ。普通「何かを見せる」ために照明を当てると思うんですけど、この舞台には「何かを消す」ため、「何かを見せない」ための照明がたくさんあるんです。 この作品は、上演中に出されるキュー(舞台進行のきっかけ)が2000個ぐらいあるんですよ。キュー・コーラー(キューを伝える人)が舞台袖でキューを出して物語が進んでいくんですけど、それが止まるとこの作品は何もできないくらい緻密に作られていて。 だから俳優としては自分たちが自由に演じられるところと、絶対に守らなくてはいけないところとがあって、そこはものすごく難しいところなんですけど……でも世界で認められた作品なので、そこは安心して、みんなで信じてやっていけるかなと思います。 ーー平方さんの本番前のルーティーンを教えてください。 平方 公演がある日は、朝7時ぐらいに起きて、30~40分散歩にいきます。昼公演も夜公演も出演するとなると、1日のうちで風を感じたり、太陽を浴びたりする時間がほぼないんですよ。そういう期間が長くなればなるほど、心身的な影響が出てくると思うので、朝に散歩をするようにしています。俳優というより、人間として必要な習慣かもしれません。 それから食事面では、お腹いっぱいになってしまうと意識が朦朧としてしまうので、フルーツを朝食としてよく食べています。これまであまりスーパーでフルーツを買うこともなかったんですけど、いちじく、プラム、もも、ぶどうと、この年にして旬の果物のおいしさに気がつきましたね(笑) ーーもしタイムターナー(逆転時計)があったとしたら? 平方 僕は1回も過去に帰りたいと思ったことはないんですよ。そういうと「素敵ですね!」なんて言われるんですけど、みなさんも帰りたいですか?ポンコツな逆転時計なら5分しか持たないですよ?(笑) ……僕が今ハリーを演じているから思うことなのかもしれないけど、僕が生まれたときに、両親がどういう顔をしてたのかは知りたいかもしれません。生まれてすぐだから記憶はもちろんないですし、ちょっと見てみたいです。 ーー最後に、俳優としての夢や目標を教えてください。 平方 僕、今すぐ俳優やれなくなったとしても、別に後悔もないんですよね。見えない未来に期待するよりも、今、目の前の環境を楽しんで、感謝して、充実させていきたいんです。そのためにも、まずはこの『ハリー・ポッターと呪いの子』を必死に頑張ります! 取材・文:五月女菜穂 <公演情報> 舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』 ロングラン上演中 会場:TBS赤坂ACTシアター