菊池風磨“饗庭”「信じてください」現代日本で避けて通れない問題を取り扱う「ゼイチョー」の価値
11月11日に第5話が放送された「ゼイチョー~『払えない』にはワケがある~」(毎週土曜夜10:00-10:54、日本テレビ系/Huluにて配信)。「助けてくれるって?あの子たちを?」生活苦にあえぐ人々の悲痛な言葉が、第三係を追い詰める。これまでの勧善懲悪な展開とは異なる一幕に、「奥深い問題を取り扱うなあ」「避けては通れない話だけに、考えさせられた」とSNSで反響を得ていた。 【写真】鈴木もぐら“加茂原”を抱く菊池風磨“饗庭”のワチャワチャがかわいい ■「ゼイチョー~『払えない』にはワケがある~」とは 同ドラマは「BE・LOVE」(講談社)にて、2016年4号から2017年6号まで連載されていた「ゼイチョー!~納税課第三収納係~」が原作。“徴税吏員”が滞納されている税金を徴収するべく奮闘する物語で、著者である慎結が市役所で非正規職員として働いていた経験を基に描かれている。 ノリは軽いが優れたスキルを持った徴税吏員・饗庭蒼一郎を演じるのは菊池風磨。そして、蒼一郎と正反対、真面目に滞納者と向き合う猪突猛進タイプの新人徴税吏員・百目鬼華子役は山田杏奈が務める。 ■「市役所に来てよ。ゆっくり教えるから」加茂原の優しい声掛け 行きつけの銭湯の湯船に浸かっているのは第三係の加茂原健介(鈴木もぐら)。ボーッとしながら日頃の疲れを癒していると、1人の青年が目に入る。その青年は、他の客が使った風呂桶やイスを1人で黙々と片付けていた。ずいぶんと親切な青年のようだ。 加茂原が風呂から上がり脱衣所で着替えていると、そこでも浴場で片付けをしていた青年の姿が。好青年ぶりが印象に残っていたため目で追ってしまった加茂原は、彼のものと思われるカバンからは何通もの「税金滞納通知」がのぞいているのを見かける。 「ちょちょちょ、ダメだよ、これちゃんと納めないと」。加茂原は思わずその青年に声をかけた。青年はベトナム出身のグエン・ヴァン・ナム。農業の特定技能ビザで2年前に来日したという。どうやらグエンは書類に書かれている漢字や、国民健康保険税の納め方が分からずに滞納してしまっているようだ。 放っておくと家宅捜索になり、家財を差し押さえられてしまう。加茂原が丁寧にかみ砕いて説明すると、当然グエンは困った表情になる。見かねた加茂原は「市役所に来てよ。ゆっくり教えるから」と市役所へ誘った。すると安心したようでグエンは笑みを浮かべる。 普段は節約しているが、風呂が壊れてしまい偶然銭湯へ来ていたというグエン。しかし、「ここに来たおかげで加茂原さんに会えました」とうれしそうな表情で、加茂原との出会いに感謝する。温かい言葉を受けて、加茂原も「俺でよければ力になるよ」とエールを送った。 翌日、第三係の窓口へグエンが納付の相談に来所。加茂原はグエンの姿を見つけると一安心した様子で笑顔を浮かべる。「国保税はどうして納付されていなかったんですか?」と饗庭がグエンに尋ねるが、事情を知る加茂原がグエンの代わりに答えてあげるという一幕も。 「これは支払わないといけませんですか。私は保険に入らなくてもいいですよ」と申し出るグエンだが、華子と加茂原は国民健康保険税は病気やけがに備えて医療費を出し合う助け合いの制度だということを説明。外国人は3カ月を超えると支払いの義務が生じることを案内すると、グエンは「じゃあ、払わないといけませんですね」と納得した様子を見せた。 グエンが国保税を4万8800円も滞納していることを知った加茂原。「グエンさんはベトナムにいる自分の家族にも仕送りをしているから、なんとか割引できないかなぁ」と、グエンから隠れるようにして華子に小声で無理なお願いをし始めた。「無理に決まっているじゃないですか」と華子が呆れながら答えると、「どうしても…!?」と見た目にそぐわぬかわいい声を出す加茂原。しかし、華子には相手にされず、キッパリ断られるハメに。 その後、「天引きの契約になっていないんですね」と華子が雇用契約について言及すると、突然「天引きは給料から先に引かれることですよね」とグエン。住民税が給与から天引きにしている人が多いという説明を受けて、「私もそうですよ。私も天引きの契約ですよ。住民税は農家の人が払っているはずですよ。契約の時に約束しました」と、やけに流暢に話すグエンの言葉に、第三係の面々は顔をくもらせる。 ■「あなたには人の心がないんですか」華子がチョゼる姿が格好良い 同時期、同じく海外からやってきたチュン・ティ・ミンの問題にも当たっていた饗庭と華子。彼女は住民税が1年前から滞納されているが、「会社の人が、税金は会社が払うって言ってました」と主張し始めたのだ。 「約束違います」と憤るチュンの言葉を受けた饗庭と華子は、チュンの派遣会社を訪れた。派遣会社の社長である作田明紀から手渡された契約書を確認すると、たしかにチュン自身が納付するという「普通徴収」の契約となっている。 この派遣会社では、どの外国人労働者とも普通徴収の契約をしていると話す作田。納税意識の違いや生活費や仕送りを優先して滞納する労働者が多いが、労働者側の要望に答えて、天引きではなく、普通徴収として対応していると語った。 改めてチュンに話を聞きに行くと、「みんな困ってる。悪いのは私たちですか?」という言葉が返ってくる。そして、チュンと同じ派遣会社で働く別の外国人労働者も住民税が天引きされていると思っていたという話を聞き、饗庭は「あの会社なんかありそうだね…」と呟く。 翌日、饗庭と華子はチュン達労働者達の契約書と、派遣会社の口座情報を調査。すると、ある事実が判明した。なんと「住民税」の名目で労働者達の給与から天引きした給与の10%が、派遣会社社長の作田が代表を務める子会社の口座に入金されていたのだ。 饗庭と華子は派遣会社の作田の元へと向かい、事実を指摘。「こちらの会社が派遣する人材は海外からの短期労働者が中心です。皆さん3年もすれば帰国してますから、例え住民税が未納でも一旦帰国すれば追いかけることが難しくなることが多い」と饗庭が痛いところを突くと、作田の顔はみるみる青ざめた表情に。 「チュンさんたちは安い時給で、日本人の人手が不足している福祉やサービス業の現場で働いています。職場では声を上げづらく、納付書などの難しい漢字にも慣れていません。そんな方たちを騙して、さらに搾取するなんて…あなたには人の心がないんですか」と、華子は強い口調で感情をあらわにする。どこか、税に苦しんだ自身の家庭に重ねたのかもしれない。 ■グエンの言葉と真意 酷い搾取を働いていた派遣会社を見た饗庭は、グエンのことも思い出していた。彼の働いている「いくしま農園」の経営者・生嶋妙子(大島さと子)は、一見して悪い人柄ではなさそうに感じる。グエンとの契約にもおかしなところはなかったが、相手は日本語に不慣れな外国人。そして、農園で働く外国人たちは、全員が住民税を払っていないという状況まで派遣会社の件と一致していた。 そこで考えた饗庭は、農園へ収穫の手伝いを申し出る。外国人たちの職場環境を見るという名目で、なぜか関係のない第三係の面々まで来たのはご愛敬。しかし、農園では全員が家族のような温かい関係を築いており、生嶋が搾取を働いているとは思えない。 一日の仕事が終わり、饗庭は正直に生嶋へ「正直、疑ってました」と告白。しかし、彼女から返ってきた言葉は、まさかの「饗庭さんの言うとおりですよ。私がグエンくんたちを騙したの」というものだった。生嶋は農園の2年前に夫を亡くしてから人手が足りなくなり、しかし円安の影響もあって外国人たちすら集まらない。そこで考えた苦肉の策だったという。 改めて税金の支払いを申し出る生嶋だったが、彼女を止めたのはほかでもない、グエンだった。「違うんです。生嶋さん悪くない」。生嶋がもういいと止めても、グエンはかたくなに譲らない。その様子を見て、饗庭の中で一本の線がつながった。 「グエンさん、あなた住民税が天引きされていないこと、本当は始めから知っていましたよね。その上で、住民税を滞納したお金を生嶋さんに渡していた」。饗庭の推理は、グエンが生嶋を救うために画策した税逃れだったのではというもの。外国人労働者は短期で帰国する場合が多いため、税を滞納してもうやむやのままに終わることが多い。経営がひっ迫して農園を畳もうとする生嶋の姿を見て、グエンが今回の方法を思いついたのではないかと指摘する。 市役所で国保については明るくなかったグエンが、なぜか住民税の天引き制度についてだけは詳しかったことから違和感を持っていたという饗庭。饗庭と華子が生嶋の家で話を聞いたときも、あえて「言った、言わない」の争いを生嶋とすることで結論を先延ばしにする狙いがあったのでは…と見抜いた。 そして、経営の苦しさからグエンらが住民税を滞納していると知りながらお金を受け取っていた生嶋。「生嶋さん、良い人。とても優しい。私、助けたかった。生嶋さんの野菜もなくなってほしくなかった」。グエンは苦い顔をして、農園で働く外国人労働者たちに生嶋へお金を渡すように提案したことを明かす。 「こんなことになる前に相談に来てくれれば…」と華子が漏らすと、遮るように生嶋が声を荒げる。「助けてくれるって?あの子たちを?」。日本人より安く、不利な立場で使われる外国人労働者たちを見ている華子らは、言葉に詰まってしまう。 だが、加茂原が重い口調で「それでも税金は収めてもらわないといけません。ただ、そのお金は皆さんが住みやすい街になるように、必ず将来のために使ってもらいますから」と説得。次いで饗庭も「俺たちと、みゆきの市を信じてください」と真摯に頭を下げた。 後日、実は生嶋はグエンらから受け取ったお金を使っていなかったことが判明。彼らが滞納していた分を収め、「みんなを悪者にするわけにいかないもの!」とグエンに笑顔を向けた。彼らの温かい気持ちは受け入れつつ、グエンらが帰国した後にはお金を収めた上で農園を畳む決意をしていたようだ。 さらに、生嶋には外国人労働者を雇用することで受け取れる補助金や、手が足りずに放置している農地を他人に貸し出す“市民農園”という市独自の制度を案内。そのおかげで、グエンらも日本に留まって働き続けることができるようになった。 今回の結末には、SNSでも「ゼイチョー、わかりやすい“悪”を作って裁いて…みたいな展開ばっかりじゃないのが良いよね。善悪で二分できる簡単な問題だけじゃないから、すごく“人”を描いてるって感じ」「外国人労働者なんてタイムリーで難しい問題、よく切り込んだな。視聴者にも考えさせる構造になっていて、なんだか良い意味でモヤモヤが残る回だった」といった声が相次いだ。