「この大学を守る!」 軍人出身の学長と、ある日本人の志(前編)
トム・クルーズ主演の映画『トップガン マーヴェリック』。そのモデルにもなった米国海軍・戦闘機パイロットだったテッド・カーター氏(64歳)が今年1月、オハイオ州立大学の学長に就任した。この背景には、後に述べる一人の日本人の存在があった──。 【写真】学長室に飾られているジャンパー。空母への着艦回数が書かれたワッペンが貼られている オハイオ州立大学は学生数約6.5万人を誇るマンモス大学で、全米屈指のアメリカンフットボール強豪校としても知られる。カーター氏は学長オファーを受けた時、「どうして自分に声がかかったのか、当時は信じられませんでした」と振り返る。 しかし、制服を着ていた最後の6年間は海軍大学長、海軍兵学校長を務め、直前はネブラスカ大学の学長を務めるなど「常に教える場に身を置きたいという気持ちがありました」と言い、映画『トップガン』に込められた意図をこう語った。 「『トップガン』は単なる戦争映画ではありません。また、最高の戦闘機パイロットになることよりも、戦争を起こさない、あるいは最小に抑えるための考え方を教えることに重点を置いています。それだけでなく、心を広げ、学ぶことへの好奇心を持つことの大切さを訴えています」 つまり、軍人に対する教育訓練の重要性を理解してもらうための映画だったというのだ。カーター氏にとって、教育、特にリーダー教育はライフワークの一つであり、学長オファーを引き受けた理由をこう話す。 「オハイオ州立大学は154年の歴史があり、世界最大級のキャンパスを持っています。その規模と範囲は、他の誰もができないことを行う機会を提供してくれ、チャンスでもある。大学は年間100億ドル(約1兆6000億円)で運営され、学生6.5万人、教職員4万人、存命の卒業生は60万人以上います。これは、私たちの誇りです。 そして、これからの時代は、変化の担い手となるリーダーが求められており、私の軍人としてのキャリアや高等教育での経験が役立つと考えたからです。大学であれ、大規模で複雑な組織であれ、その運営には強いリーダーシップが必要です。しかし、自分一人の力では何も成し遂げられないので、部下を信頼し、同じビジョンや価値観を共有して仕事をする必要があります」 続けてカーター氏は言う。 「私の個人的な経験では、戦闘機で6000時間以上飛行し、125以上の戦闘任務やさまざまな作戦を経験しました。ただ、テクノロジーが進化しても、変わらなかったことがあります。それは、『完璧な情報を持つことはできない』ということです。時には情報が揃っていない中で、迅速に決断をしなければなりません。どんな組織であれ、意思決定の本質は同じです」