サハリン島に「2時間半・140キロ」先まで道案内をしてくれた【ギネス級に親切】なおじさんがいた話
外国のとんでもないトイレ、各国の国境職員や交通を取り締まる警察官との飽くなき闘い、車の残骸が転がる地雷地帯――。 新著『今夜世界が終わったとしても、ここにはお知らせが来そうにない。』は、リモートワークをしながら世界中を旅する夫婦が、楽園(移住先)を探すため、軽自動車とともに南アフリカを目指す旅の記録です。 放浪して9年、いまだ日本に戻れていない事情とは… 同書から一部を抜粋し、3回にわたってお届けします。第1回の舞台はサハリンです。
■謎なき謎をたずねて2000キロ 2015年のお盆をすぎたころ、北海道・稚内からフェリーに乗った。 醤油や味噌、みりんや出汁、米や餅やラーメンを車に山盛り積んで。屋台でもやるのってくらい各種調味料を揃えて。小さな炊飯器を買って。 地図を眺めたところ、南アフリカまでざっと2万キロ。寄り道をしたり、道に迷ったりするだろうから、多めに見積もって片道は3万キロとしよう。となると往復6万キロ。地球一周が4万キロだから、宇宙にはみ出るほど長いドライブになる。
再び稚内の地を踏むまで、2年。いや、コトと次第によると3年を過ぎるかもしれない。楽園を見つけたにしても一度は帰ってくるから、稚内よ、どうぞそれまで御達者で。船内で配られた無料の幕の内弁当を食べながら、遠ざかる港にしばしの別れを告げた。 それが稚内を見た最後となった。 のっけからネタバレすると、もう二度と戻れないのである。そんな運命とは知らず、フェリーに揺られて5時間半、妻のYukoとボクはサハリン島に上陸した。
これから南アフリカの喜望峰くんだりまで楽園を探しに行くという、たいへんおめでたい旅の門出は、倒産した工場のように辛気臭いコルサコフ港と冷たい雨が迎えてくれた。 ■未舗装の道を軽自動車で まずは、スマホのSIMカードを買おう。 いつなんどき仕事先からメールが届くかわからないから、SIMはリモートワーカーの生命線である。生業はデザイナーである。スマホにSIMを挿入して地図アプリを開く。 Yuko、どこへ行こうか?