ビニールタッキーの「月刊おもしろ映画宣伝」2024年8月号
映画会社は、日々工夫をこらし、作品の魅力をPRしようと努力している。時には評論家や俳優が真面目に作品の魅力を語り、時には他ジャンルとコラボし客層の拡大を図り、時にはダジャレやこじつけでSNSでのバズりを狙い……。そんな施策を日々ウォッチしている“映画宣伝ウォッチャー”ビニールタッキーが、前月気になった映画の記事についてコメントする連載が、「月刊おもしろ映画宣伝」だ。 【動画】藤岡ファミリー「デッドプール▽俺ちゃんストア」プレビュー来店映像(他3件) 2024年8月を振り返るこの回では「エイリアン:ロムルス」「トランスフォーマー/ONE」「ビートルジュース ビートルジュース」といった作品を通じ、洋画の日本語吹替について考える。声優ブーム、起用されたゲスト声優の能力の向上、宣伝方針の変化などを踏まえた、近年の吹替の傾向とは。記事末ではMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)も発表している。 文 / ビニールタッキー 「月刊おもしろ映画宣伝」8月号をお届けします。「おもしろ映画宣伝」とは、海外の映画を日本で宣伝する際に発生する面白いPRイベントや不思議なコラボなどの案件をまとめて総称するために私が勝手に名付けた名前です。このコラムはその月にあったおもしろ映画宣伝をピックアップする連載コラムです。今月もご紹介していきましょう! ■ 「ツイスターズ」 宣伝アンバサダーとして活躍してきたダイアン津田さんとレインボーのジャンボたかおさんが「ツイスターズ」にあやかってツイスター対決! なんというかほっこりとするイベントです。この映画は基本的にはエンタメ全振りなのでこういう宣伝もアリだと思います。 ■ 「ねこのガーフィールド」 “アニメーション映画「ねこのガーフィールド」の“宣伝ニャンバサダー”に、NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」で第12代体操のお兄さんを務めた誠お兄さんこと福尾誠が就任。YouTubeでは福尾とガーフィールドが一緒に踊る、オリジナルのニャンダフル体操動画が公開された。” NHK Eテレのお歌のお兄さん・お姉さんや体操のお兄さん・お姉さんが卒業後に芸能活動を続けられることがありますが、ここ数年は宣伝等に関わるケースが増えてきたと感じます。特に子供向け作品の宣伝に呼ばれるとご自身の歌唱力や身体能力を余すところなく発揮してくれることがあってEテレ視聴者としてはうれしい限りです。この体操動画も「ねこのガーフィールド」の要素をしっかり盛り込んだ体操になっていてグッときました。 “「おかあさんといっしょ」第12代体操のお兄さん“誠お兄さん”として知られる福尾は、スペシャルゲストとして登場。オリジナルの「ニャンダフル体操」を登壇者・観客と一緒に踊り、会場を大きく盛り上げる。福尾は「ガーフィールドの魅力は、とにかくよく食べること。豪快に食べる姿は見ていて気持ちがいいし、元気をもらえる。ふてぶてしいのに愛くるしい”ねこ性”が憎めないんですよ! 友情であったり、親子の絆がポイント。物語も難しくないので、小さなお友達から大きなお友達まで皆さんが楽しめる作品になっていると思います」と子供の視点にも寄り添って本作をアピール。さらに日本語吹替についても絶賛すると、山里は「日頃から我が子を盛り上げていただいていたんですが、親も盛り上げていただきありがとうございます!」、MEGUMIは「お兄さんの巻き込み力、半端ない!」と感激しきりだった。” ニャンダフル体操はPRイベントでも大活躍。そして誠お兄さんの100点と言うしかない圧倒的なコメント力に感服しました。「巻き込み力、半端ない!」はまさにその通りだと思います。 ■ 「デッドプール&ウルヴァリン」 “イベント「デッドプール▽俺ちゃんストア」のオープン前日に行われたプレビューに、マーベル好きの藤岡弘、、天翔愛、藤岡真威人が親子で来店。店内を巡る様子を捉えた映像がYouTubeで公開された。 ※文中▽はハートマーク” 正確に言うと映画宣伝ではないのかもしれませんが、映画関連イベントですし、あまりにもいい動画だったので紹介させてください。藤岡弘、ファミリーがデッドプールの期間限定ストアを巡る動画なのですが、終始楽しそうでほのぼのとした空気が流れているのが最高です。精巧でかっこいいフィギュアだけでなくぬいぐるみなどかわいいグッズにも魅了される藤岡弘、ファミリーの様子を見せることで、ヒーロー映画にもさまざまな楽しみ方があるということを示す動画になっていると思います。 ■ 「#スージー・サーチ」 “本日8月8日が“歯並びの日”であることにちなんで、映画「#スージー・サーチ」と、院長・きぬた泰和の顔写真入り看板で知られるきぬた歯科がコラボ。新たなビジュアルと応援コメントが到着した。” 今月一番びっくりしたのはこの宣伝でした。主人公スージーがカラフルな歯列矯正をしていることと「歯並びの日」にちなんできぬた歯科とコラボ……およそ常人には思い付かない斬新なコラボレーションです。 “同院が映画作品とコラボするのはこれが初めて。ひと足早く本編を鑑賞した八王子きぬた歯科院長・きぬたは「カラフルな矯正装置からイメージした映画とは真逆な、良い意味で裏切るストーリー。スタートからスリリングな展開、ラストの衝撃は『きぬた歯科』の看板を初めて見たときのようだ」とコメントを寄せた。” 院長のコメントがうますぎる! 予想しますが、院長には今後もコラボのオファーが来そうな気がします。 ■ 「エイリアン:ロムルス」 “映画「エイリアン:ロムルス」が日本語吹替版でも公開されることが明らかに。声のキャストには戸松遥、内田雄馬、石川界人、内田真礼、畠中祐、ファイルーズあいが名を連ねた。” 「エイリアン:ロムルス」の日本語吹替版公開決定! 子供の頃、「エイリアン」シリーズをテレビの日本語吹替版で何度も観たような人間にとってはとてもうれしいニュースです。しかも実力派声優陣による吹替というのもうれしい! 勝手な解釈ですが自分のようなテレビ洋画世代がこの英断を下してくれたに違いない……と思っています。ありがとう! ■ 「トランスフォーマー/ONE」 “吉岡が洋画作品の吹替を行うのはこれが初めて。オリジナルではスカーレット・ヨハンソンが声を当てた戦士エリータ-1役を担う。吉岡は「あのトランスフォーマーから、お声がかかったのかと、もう本当に高揚感と、ワクワク感で、『早く台本読みたい!』と思いました」とオファーを受けたときの心境を伝え、「自分という核がブレないキャラクターなので、そこがすごく魅力的で、大好き」とエリータ-1の魅力を語る。推しキャラクターを聞かれると、「全員大好き」と話しつつもバンブルビーを選んだ。” こちらは吉岡里帆さんが洋画吹替初挑戦ということでなるほど……とコメントを読み進めていたのですが、 “海外映画の吹替というものが私自身初めてだったので、いままで参加してきた声優のお仕事だと日本のアニメーションはキーがかなり高くないと絵にあたらない事があるというのが自分の中の印象でした。今回は、真反対でスカーレット・ヨハンソンさんやエリータ-1のビジュアルに合わせて自分の地声よりかなり落として低く響かせる練習を一番初めに行いました。ボイストレーニングの先生とはじめにやったのが丹田と低音の響きを鍛えるために、腰をぐっと持って後ろから引っ張ってもらい、それで台詞を喋る練習をしました。引っ張る力に負けないくらいの力を鍛えました。その後に、海外作品の吹替の方の特徴というか響き、英語圏の方の吹替は口の中に空間があるというか日本語だときゅっと締まっているものが広がっているイメージがあったので、(口の中を)広げる練習や、あとはもう吹替を沢山観ました。かなり日本の声優さんたちを参考にさせていただきました。” めちゃくちゃ分析と実践を重ねている……! というかほぼ日本語吹替研究の域に達しているじゃないですか! 吉岡さんは映画などでもかなり役を研究する方だと聞いたことがありましたがここまでとは。映画「トランスフォーマー」シリーズは、本業の声優さん以外を起用するいわゆる「タレント吹替」でも配給さんとゲスト声優の双方が熱心に取り組んでいるという印象があったのですが今回はさらに気合い十分ということが伝わってきました。これは楽しみです。 そして最後は私が勝手に決める今月のMVP(モスト・ヴァリュアブル・プロモーション)。今回はこちらです! ■ 「ビートルジュース ビートルジュース」 “キャラクターに扮装した“全身吹替”の状態で写真撮影も行ったキャストたち。生地から制作した衣裳もあり、オリジナルとほぼ同じヘアスタイルが作られた状態でマイクの前に立った。いくつかのアイテムはマイケル・キートンやキャサリン・オハラが実際に撮影で使用したものと同じアイテムが海外から取り寄せられたそうだ。 8時間をかけて特殊メイクに臨んだ山寺は「元々、自分ではない誰かになりたいという思いもあり声優をやっている部分もあるので、いい思い出になりましたし、とても細かいところまでこだわって作っていただけて嬉しいです」「ここまでやったので、お願いだからバズってくれ!」とコメント。前髪の束感や跳ね具合をミリ単位で調整した坂本は「本当に一生に一度の経験です。一見怖そうに見えますが、優しい部分もある繊細なリディアを表現できたらと思っています」と語った。” コスプレというより特殊メイクを施して、撮影に使用したものと同じアイテムを海外から取り寄せたということで驚きました。本気度がすごい。もはやその大変な労力はアフレコと関係あるのか……?と思ってしまいますが、言葉通り「形から役に入り込む」ということができているに違いありません! きっと労力が反映されているでしょう! 完成した吹替版を鑑賞することで判断したいと思います! この「全身吹替」について、キャストの皆さんのコメントを読むと戸惑いと楽しさが伝わってきてとてもいいですね。個人的にグッときたのは森川智之さんのコメントです。 “ティム・バートン監督並みのぶっとんだ発想の全身吹替企画だと思っています。それに乗っかって楽しく撮影させていただきましたし、私のトレードマークでもある前髪とメガネを取っ払ってしまったという意味でも面白かったです。ティム・バートン監督作品だからこそ実施できた企画だと思いますし、彼にしか表現できない唯一無二の世界に参加できたことが光栄です。とても賑やかで楽しい映画になっていて、全身吹替版の声優陣もとても豪華な作品なので、ぜひ字幕版・吹替版の両方を楽しんでいただければと思います。” まさにティム・バートン監督作品だからこそのぶっ飛んだ企画……! この企画を表現するのに実に的確な言葉だと思いました。森川さんがトレードマークの前髪とメガネを取っ払われても楽しんでいる様子が感じられてとてもいいと思いました。 さて、お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが今回は日本語吹替に関するニュースを多めに取り上げました。ここ数年、本業が声優ではない俳優やお笑い芸人、バラエティタレントの方が洋画の吹替に挑戦する「タレント吹替」と並行して、実力派の声優さんを起用した「豪華吹替声優陣」を売りとして宣伝するケースが増えてきました。ここ最近は声優ブームの影響なのか、大々的なPRを打つ洋画に、本業以外の方ではなく吹替経験豊富な声優さんが起用されるケースが多くなったような気がします。そして声優さんが登壇するPRイベントもさまざまなメディアで取り上げられ、しっかりと話題を集めている印象があります。その一方で熱心な映画ファンから敬遠されがちな「タレント吹替」であっても、ゲスト声優さんの吹替仕事への向き合い方や作品に対する熱意、何よりも実際に収録された声の演技のクオリティの高さなどから高評価につながるケースもよく見かけます。一方的な思い込みで片方を必要以上に称賛し、もう片方を下に見る時代ではなくなってきたと感じます。これもひとえに配給会社さんをはじめ、仕事に取り組む声優さんやゲスト声優さんの努力と、この映画を盛り上げていいものにしよう!という熱意によるものだと感じます。いい時代になりましたね! 以上、月刊おもしろ映画宣伝2024年8月号でした。次回もお楽しみに! ■ ビニールタッキー 映画宣伝ウォッチャー。ブログ「第9惑星ビニル」の管理人。海外の映画が日本で公開される際に発生する“おもしろ宣伝”を観察・収集する。トークイベント「この映画宣伝がすごい!」を毎年開催。 ビニールタッキー(@vinyl_tackey) | X 第9惑星ビニル (c)2024 20th Century Studios. 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