敵地フェンウェイでマー君にブーイングは起きない?
ボストンの野球ファンの繊細な心理
宿敵対決だから、罵詈雑言、罵倒一辺倒というイメージがあるかもしれないが、事情に通じた野球ファンが多いボストンの反応は、実は非常に繊細で奥が深い。 例えば、FAで移籍したデーモンが、ピンストライプのユニフォームを着てフェンウェイパークに初見参した時は、ブーイングと拍手が交互に入り交じった複雑な反応だった。ファンが望む残留叶わず、宿敵に奪われた形だが、ベーブルースの呪いを断ち切って、86年ぶりに悲願のワールドシリーズ制覇を成し遂げた04年メンバーの一員だということを誰もが忘れていなかったからだ。 08年に球団にゴネる形でトレード志願し、ドジャーズに移籍したラミレスが、2年後フェンウェイパークに戻ってきた時は、ブーイングの嵐かと予想されたが、実際の反応は、もっと複雑で繊細な感情が入り交じったものだった。04年と07年の優勝に貢献したスラッガーがネクストバッターズサークルに入ると、最初はブーイングだったが、それが、『マニーコール』にかき消され、最後はスタンディングオベーションに昇華されるという、鳥肌ものの現象が起きた。FAでフィリーズに移籍したパペルボンに至っては、球場内のスクリーンに「ウェルカムバック」の文字と07年優勝時の映像が流れる程。球団を去った現役選手には珍しく、手厚い歓迎をみせたこともある。
メジャーならではのユーモア溢れた野次文化
最近で一番激しいブーイングが起きたのは、昨年のプレーオフ地区シリーズのレイズ戦第1戦。凡フライを見逃したのが、レ軍大反撃のきっかけを呼んだレイズの右翼手マイヤーズ。客席は「マーイヤーズ、マーイヤーズ」の大合唱。翌日の第2戦では、まるで、大音響の野次が更なる失策を呼ぶことを期待するかのように、打球が右翼に飛ぶ度に大合唱が沸き起こった。 エラーした相手に、まるで弱者イジメのような野次は、遺恨となっても不思議ではなかったが、ア・リーグ最優秀新人賞に選出された22歳(当時)もさるもの、第2戦で連敗した後、ツイッターに「あの野次をもう1度聞くために、第5戦まで戦うぞ」などとユーモアたっぷりの反応を示した。これには、レ軍の番記者にも「なかなか、骨のあるヤツだ」という受け止め方をされていたのが、いかにも米国らしい。鳴り物のないメジャーならではの野次文化が生んだエピソードだ。 ヤンキースと7年の長期契約を結んだ田中にとって、この先、何度も戦うことになるフェンウェイパーク。敵地の反応も、登板を重ねる毎に変化していくだろう。ボストンが、最初にみせる反応はさて如何に…。試合開始は午後7時(日本時間午前8時)。田中がマウンドで投球練習を始めた時に、フェンウェイパークにどんな現象が起きるのか、その辺も、テレビ中継でしっかりとチェックしてみよう。