『春になったら』奈緒と木梨憲武が張る親子の共同戦線 笑顔で病に対峙する生き方
言葉以上の信頼と絆を描く脚本
瞳はこうと決めたら突き進むタイプで、頑固でこだわりの強いところは父譲りである。周囲を振り回しがちなところもあるが、肝心な時に何をすべきかはわかっている。今は雅彦のために、雅彦が悔いなく最後まで幸せでいられるように。そう思うのは瞳が医療従事者であることも関係している。結婚を待ってほしいと言ったら一馬はがっかりすることもわかっているけれど、率直に言えたのは一馬への信頼の証である。どんな失投も笑顔で「僕は好きだよ」と肯定できる一馬だからだ。 結婚して親になり、親の気持ちがわかるようになるちょうどその時に、自分を生み、育ててくれた人はこの世から去る。そういうあまりに切ない設定が物語のコアにあって、『春になったら』では、登場人物それぞれが互いを思いやり、言葉以上の思いを交わすことで親子や恋人、友人との関係を何重にも塗り重ねていく。それくらいしないと家族の絆は描ききれないし、そうやって両手いっぱいに愛と信頼を携えても、死と対峙することは簡単じゃない。相手の強大さを瞳と雅彦は認識している。思えば二人は戦友だった。母の佳乃(森カンナ)が亡くなった時から雅彦と瞳は共同戦線を張ってきた。そうやって生きてきた二人が交わす笑顔はまぶしいくらい美しい。
石河コウヘイ