<高校野球>憧れの聖地「全力で勝ちに行く」 21世紀枠3校の選手ら、新たな舞台に闘志
新型コロナウイルスの影響で中止となった第92回選抜高校野球大会出場校の野球部員たちに「甲子園」での試合を提供する「2020年甲子園高校野球交流試合(仮称)」の開催が10日決まった。既に夏の甲子園大会も中止が決まっており、春夏の夢舞台を失った選手たちへのせめてもの贈りものとなった。選手たちは憧れの地で試合ができる喜びをかみしめ、春夏とは違う新たな舞台に向け、「勝ちに行きたい」と早くも闘志をたぎらせていた。【高校野球取材班】 【写真特集】センバツ32校 ◇「ファインプレー見せる」平田(島根) 「大切なお知らせがあります」。センバツの21世紀枠で選ばれ、春夏通じて初の甲子園出場を決めていた平田(島根)では、この日夕、グラウンドで練習前のストレッチを終えた選手たちに集合がかかった。坂根昌宏校長が「憧れの甲子園で野球ができる。おめでとう」。いったん幻となった聖地への切符が再び届き、選手たちはうなずき、静かに喜びをかみしめた。 1月24日のセンバツ出場決定後、チームは「甲子園で校歌を」と書かれたボールで練習してきたが、夏の甲子園中止決定後は使用を控えた。植田悟監督から再びそのボールをポンと渡された保科陽太(ひなた)主将(3年)は「甲子園を目標に苦しい練習を積んできた。本当にうれしい」と笑顔がはじけた。 地元の幼児らに投げる・打つの楽しさを伝える教室活動をしてきた坂田大輝選手(3年)は「他の(競技の)高校生のことを考えると複雑な気持ち」としつつ、「これまで教えた子どもたちがかっこいいと思えるようなファインプレーを見せたい」と気を引き締めた。 植田監督は「夏の中止を聞いた多くの部員が大粒の涙を流した。1カ月半の休校で選手の体力は落ちているが、最善の準備をし地域に明るい話題を届けたい」と話した。 ◇「野球も勉強も最後まで」磐城(福島) ほかのセンバツ21世紀枠選出校でも喜びが広がった。磐城(福島)では10日夕、練習中に吉田強栄校長から交流試合の開催決定を伝えられると、ナインに笑顔が浮かんだ。渡辺純監督は「(4月に)着任してから、ずっと部員たちの悲しい顔を見てきた。やっとうれしそうな顔を見られた」とほっとした表情を見せ、「高校野球を最高の舞台で終えられる人は少ない。全力で戦いたい」と決意を新たにした。 岩間涼星主将(3年)は「(センバツ中止が決まった時は)野球の神様はいないのかと落ち込んだ。でも(3月で退任した)木村(保)前監督が残した『忍耐』という言葉が心の支えとなって頑張ってこられた」と振り返った。一時は受験勉強に専念しようとしていた選手もいたというが、「野球も勉強も(部訓の)Play Hardで最後まで頑張ろう」と誓い合っていたという。「交流試合開催決定は奇跡。チーム一丸となり、(チームカラーの)コバルトブルーのプライドで試合に臨みたい」 木村前監督も取材に応じ「(センバツ中止で)選手たちは、はい上がれないほど苦しい日々が続いた。甲子園で躍動してほしい」とエールを送った。 ◇「感謝の気持ちで」帯広農(北海道) 真夏日となった北海道帯広市の帯広農高グラウンドでは、野球部の大久保聡彦部長(57)が交流試合への招待を選手に伝え、「感謝の気持ちを持って甲子園で勝負してほしい」と話した。 センバツに続き、夏の甲子園が中止となり、3年生のショックは大きかった。自身も「心が折れた」と明かす井村塁主将(3年)は「大好きな野球を最後までやりたかった」と、部活動から進路に気持ちを切り替えようとする仲間たちを鼓舞してきた。 緊急事態宣言も解除され、学校が再開した1日、野球部は約1カ月半ぶりに全体練習を開始。道高校野球連盟が開催する代替地方大会を目標に動き始めていた。新たな目標に加わった交流試合に井村主将は「思い出作りではなく、勝ちに行きたい」と意欲をみせた。 グラウンドでは3月末の定年退職前まで野球部長を務めた白木繁夫さん(61)がコーチとしてチームを支えている。センバツ中止で甲子園を花道にできなかったが、「1試合でも選手がグラウンドに立つことができるのはうれしい。私もノッカーとしてグラウンドに立てるかな」と笑顔を見せた。【小坂春乃、三沢邦彦、磯貝映奈】