部下を輝かせるサーバントリーダーがしている4つのこと
■大きな成功をもたらすサーバントリーダーシップ 「私の目標は、世界で最も権力のないCEOになることだ」 ヘルシンキを拠点とする20億ドル規模のモバイルゲーム会社、スーパーセルの共同創業者兼CEO、イルッカ・パナネンはそう宣言する。ヒット作を生み出す秘訣は、優秀な従業員を集めて、とてつもなく野心的な目標を与え、どのような製品をつくるかを自分たちで自由に決めさせることだと、彼は考える。そして、実際に「クラッシュ・オブ・クラン」「ヘイ・デイ」「クラッシュ・ロワイヤル」など10億ドル規模の大ヒット作を輩出し、リーダーシップを機能させすぎて従業員のじゃまをしないようにするという戦略が、魔法を起こすことを証明している。 マッティ・アラフフタも同様に素晴らしい実績を残している。アラフフタが1993~98年にノキアテレコミュニケーションズの社長を務めた際、同社の売上高は6倍近く増えた。1998~2003年にノキアの携帯電話事業を率いた際も、売上高は約400%増の290億ドルに達した。さらに、2005~14年に世界有数のエレベーター会社コネの社長兼CEOを務め、同社の時価総額は34億ドルから215億ドルへと急上昇した。自身の仕事で最もモチベーションが高い点を問われると、アラフフタは部下の成長を手助けすることだと答える。 この2人のエグゼクティブは、サーバントリーダーシップへの変化を体現している。カリスマ的であることやトップからの指示ではなく、すべての従業員が最大限に力を発揮できるように支援することを重視するリーダーシップだ。このアプローチが、従来のリーダーシップより優れたパフォーマンスと高いエンゲージメントをもたらすことを示す科学的な証拠も、それを実現しながら素晴らしい財務内容を維持する企業も増えつつある。 世界で最も階層社会から遠い国の一つであるフィンランドは、このトレンドの最前線にいる。筆者が「北欧型ミニマリスト・リーダーシップ」と呼ぶ、地位を重視しない謙虚なアプローチの実験室ともいえるだろう。 ミニマリスト・リーダーシップを実践するCEOは、あまり目立たず、注目の的になることを避け、支配を主張しない。そして、従業員を輝かせ、自分のエゴより会社のためになることを優先し、結果としてより強く、より革新的なビジネスを構築する。 ■ミニマリスト・リーダーシップが機能する理由 リーダーとして、明確な命令と厳しい監視で人々を思い通りに動かすことは簡単だ。しかし残念ながら、強制は、従業員が本来持っているであろうモチベーションを奪い、自主的に、創造的に、積極的に行動する可能性を潰してしまう。反復作業が自動化され、人間が影響を及ぼす範囲は主体性と革新性が求められる仕事へと変化している現在の知識経済において、そのようなリーダーシップは通用しない。「パフォーマンスの質」が重要な場面では、「モチベーションの質」も重要であることが研究により一貫して示されている。内から生まれる意欲がある従業員は、よりよい結果を出す。 自己主張が強すぎるリーダーは、従業員のじゃまになりがちだ。米国のピザ・フランチャイズを対象とした有名な研究によると、積極的な従業員がいる店舗において外向的なリーダーシップスタイルが発揮されている場合、利益が14%低下すると判明した。 対照的に、ある全国チェーンレストランの71店舗を対象とした別の研究では、店長のサーバントリーダーシップが、より強力なサービス文化と関連し、結果としてパフォーマンス(各店舗の配達の精度、顧客満足度、清潔さなどの指標で測定)が6%向上することがわかった。 リーダーとして、部下の内なる炎に火を点けるにはどうすればよいか。筆者はフィンランドの著名なミニマリスト・リーダーたちから4つの重要な実践方法を学んだ。 ■1. 明確で共有できるビジョンを確立する アラフフタは、自身のリーダーシップ哲学を2つの基本ステップに集約している。すなわち「方向性を定め、懸命に働いて全員を巻き込む」ことだ。従業員の主体的なモチベーションを共通の目標に向かわせなければならない。 方向性を「どのように」定めるかということも重要だ。北欧の企業では、すべての決断について従業員と話し合わなければならない。この「ディスクユテーラ」(diskutera)の慣習はジョークにもなっている。新しい戦略案について、清掃作業員の意見を本当に聞く必要があるだろうか。 それはさておき、優れたリーダーは、このやり方では「決めるまでに」時間がかかるが、全員が意見を聞いてもらえたと感じることから強いコミットメントが生まれ、「決めた後に」チームが即座に始動しやすくなり、より迅速な実行につながることを理解している。 スーパーセルは、1日、7日間、30日間のプレーヤーの定着率など非常に明確な目標を設定しており、開発チームはゲームのテスト中にこれらの目標を忠実に追いかける。どの指標に注目すればよいかを全員が正確に理解しているため、プロジェクトを継続するか「中止する」かをマネジャーが指示する必要はない。判断基準はかなり高く、長い目で見てプレーヤーがリピーターになることが優先されるため、パナネンの言葉を借りれば「よいゲームを殺す」のだ。その結果、13年間で同社が世界的に発売したゲームはわずか5本。しかし、その集中的なアプローチが功を奏し、5本のうち4本が10億ドル以上の収益を上げている。