〈囲碁・女流棋聖戦挑戦者決定戦〉上野愛咲美・梨紗姉妹が決勝で激突「妹は勢いがあるしおもしろい手合いになる」「姉はNHK方式では最強」。お互いの手の内は「だいたいわかってる」
「負けた布石をまたやったのにはびっくりした」(愛咲美)
――梨紗二段は今年11月、本因坊戦の挑戦者となり、タイトル奪取ならずもあと一歩でした。その感想をお聞かせください。 梨紗 開幕から3局は地方対局だったのですが(第1局は岩手県花巻市、第2局は鳥取県湯梨浜町、第3局は香川県坂出市)、泊まる部屋がめちゃくちゃ広くて豪華、ごはんもすごくおいしくて。ふだんと違う環境での対局でちょっと緊張はしましたが、プレッシャーもなく楽しく手合いができました。 内容は第1局と第3局に勝って、ちょっとびっくりしちゃって。反省点は、勝った黒(先)番はけっこううまくいきましたが、白番のときがもう少しかな。上出来だとは思うけど作戦面で甘かったところもあるから、白番でもうちょっとがんばりたいですね。 ――愛咲美さん、お姉さんから見て妹さんの戦いぶりをどう見ましたか? 愛咲美 よくがんばっていたと思います。私からはアドバイスをあまりしていません。ただ、女流本因坊戦は9時対局開始と朝が早い。(第4、5局は東京・市ヶ谷で開催で)私たちは同じ部屋だから私が遅く帰ってゴソゴソすると、その音で梨紗が起きちゃうかもしれない。だから対局前日は私も夜は早めに帰ることにしました(笑)。 梨紗 私が頼んだんですよ。「朝9時開始だから早く帰ってきて」って。 愛咲美 第5局で妹が白番をひいて、負けた布石をまたやったのにはさすがにびっくりしました。 梨紗 いいじゃん。私としては負けたからといって、その布石をボツにしちゃうのは納得いかない。反省点は布石よりも勉強時間のほうが問題だったんじゃないかと思うので、そこがお姉ちゃんの見解とはちょっと違うかな。
直接対決は「負けてもいいかな」(愛咲美)、「無心で打ちます」(梨紗)
――そして12月14日、女流棋聖戦の挑戦者決定戦でおふたりが直接対戦。率直な心境を教えてください。 梨紗 特に何にも感じていません。ただ姉はNHK方式(1手30秒の早碁)に関しては最強だと思うので、楽しみではあります。 愛咲美 私は基本的に姉妹対決をしたくないんですよ。でも注目していただけるし、しょうがないかなって感じです。妹は(藤沢)里菜先生にも勝って、勢いがついていそうなので、おもしろい手合いになるのではないかなと。 ――姉妹であまり碁を打たないそうですね。 愛咲美 打ちませんし、研究もほぼしません。 梨紗 私は打ってもいいのですが。 愛咲美 妹はいつもこのスタンス。私は勝っても何も得られないし、負けたら最悪の気分なんで、打つメリットがない(笑)。だから公式戦以外打ちたくないです。 ――今回で公式戦2度目の姉妹対決ですね。前回(2022年の第34期女流名人戦挑戦リーグ)は愛咲美さんが勝利しましたが、対局後、家の中でのおふたりの雰囲気はどうでしたか? 愛咲美 いつもと変わらず「無」ですね。けっこう普通だったよね? 梨紗 うん。まあでも、しゃべりたくはなかったかな。ふだんでも、次に当たる相手とご飯をすることもよくありますし。相手を意識するより、自分がどうするかですから、相手はあまり関係ないです。 ――愛咲美さんは妹に負けるわけにはいかない、とプレッシャーを感じたりは? 過去のインタビューでは「絶対に負けない」と発言されることもありましたが。 愛咲美 いや、でも、里菜先生に勝って決勝にきたし強くなったみたいなので、負けても「まあいいかな」って感じですね。 ――お互い手の内はわかっている? 愛咲美 だいたいわかってると思います。 梨紗 でも意外と知らない部分があるかもしれないし、ちょっとわからないですね。 愛咲美 どうなんだろうね。盤を挟んで対峙したら、何も考えないかな。「自分と似たような顔の人がいるな~」とか、そんな感じです(笑)。 梨紗 無心ですね。女流棋聖戦を打つ対局場に芝野虎丸先生の「無心」と書かれたサイン色紙が飾ってあるんです。今回もその文字を見つめて瞑想して、無心で打ちます。 ――12月14日、どんな碁が見られるかが楽しみです。 取材・文/内藤由起子 集英社オンライン編集部ニュース班