「お客さんは上手にまとめたものが見たいわけではないと思う」映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』柴山智隆監督に聞く作品の見どころと監督として大切なこと
スタジオコロリドの長編アニメーション第4弾となる映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』が、2024年5月24日(金)よりNetflix世界独占配信&日本劇場公開される。本作は“嫌われたくない”高校生の男の子・八ツ瀬柊(やつせひいらぎ)と、“嫌われてもいい”鬼の少女・ツムギが織りなす青春ファンタジー。ある日、柊が人間の世界に“母親を探しに来た”という鬼の少女・ツムギと出会うところから、物語は始まる。 【写真】高校生の男の子・八ツ瀬柊と鬼の少女・ツムギ 本作の監督を務めたのは『泣きたい私は猫をかぶる』で長編監督デビューを飾った柴山智隆。柴山は、「今の生きづらさを感じている人たちの背中をちょっと押してあげられたら」と、作品に込めた思いを語ってくれた。
◆アニメーターとしても数々の作品で活躍してきた柴山監督。そもそも、アニメ業界で働こうと思ったきっかけを教えてください。 理由はいたってシンプルで、子供の頃から絵を描くのが好きだったからでして。そこから、好きを仕事にできるならと思い東京造形大学に入学しアニメーションについて学ぶなかで、さらに興味を持つようになりました。ただ、自主制作のアニメじゃ食っていけないよなと思い、商業アニメを制作する会社に就職しようと思うようになったんです。 ◆そうして、スタジオジブリの門を叩いた。 当時はアニメに詳しくなくて、「スタジオジブリ」しか知らなかったんです(笑)。採用いただけて本当によかったです。最初は作画担当ではなかったのですが、絵を描くのが好きだったので、しばらくしてからアニメーターに転向しました。 ◆いつかは監督をやりたいという気持ちもあった? それはなかったですね。僕は本作の主人公である柊と同じように、自己肯定感がめちゃくちゃ低いタイプなんです。「自分なんかができるわけない」と思っていたので、監督をやろう、やりたいと考えたことすらありませんでした。ただ、絵を描くことが楽しくなくなっていた時期に「演出をやりませんか」というお話をいただけて。実は、演出をやってみて楽しくなかったら業界をやめようと思っていたんです。結果的に演出の仕事に面白さを見出すことができて、続けているうちに表現したいことも生まれてきて。それで、ご縁もあって監督を務めることになったという経緯です。 ◆小さい頃から好きだった絵を描くのが億劫になってしまった理由は何だったのでしょうか? 子供のときは、絵を描いて褒められるのがうれしかったんですよね。その体験があったから、25歳というアニメーターとしてスタートするには遅い時期でも転向しようと思ったんです。一流のアニメーターになりたいという思いで必死に頑張りましたし、勉強もたくさんしました。ありがたいことに周りの方からも認めていただき、アニメーターとしてはいろいろなお仕事をやらせていただける立場になりました。ただ、そのときに「あれ、何だか楽しくないな」と思っちゃって。今思えば、当時はオリジナル作品をやれていなかったからかもしれません。アニメーションは人の絵を描く仕事が多く、それが自分の表現したいこと、求めていたクリエイティブなこととは違ったのかもしれないです。 ◆もしかしたら、演出や監督という仕事のほうが自身のやりたいことと合っていたのかも。 潜在的にはそうだったんでしょうね。自分では気づいていませんでしたが、実際にやってみて、ようやく気づきました。 ◆そうやって監督としてもアニメに関わるようになった柴山さん。本作と同じくスタジオコロリドさん制作の『泣きたい私は猫をかぶる』(以下、『泣き猫』)では共同監督という形で長編映画デビューを果たしました。 『泣き猫』のときは佐藤順一さんという偉大な監督さんと一緒にやらせていただいたんです。佐藤さんは本当にお客さんに寄り添い続けている監督で、僕もいろいろと学ばせていただきました。今回一人でやるにあたって、オリジナル作品をゼロイチで作る難しさを痛感しています。 ◆難しさを感じるなかで、どういった点にこだわって作品を制作されましたか? いっぱいありますね(笑)。 ◆そうですよね(笑)。では、まずシナリオ面でこだわったことを教えてください。 柊とツムギのロードムービーとして、ふたりの感情の流れをあまりご都合で作らないように意識しました。今回は「隠す」がテーマになるので、あえてセリフで気持ちを直接的に伝えないようにしています。絵と雰囲気で感じてもらえればと思って制作しました。 ◆続いて、映像面でのこだわりについて教えてください。 柊とツムギの時間・シチュエーションに合った表情を繊細に切り取ることにこだわりました。あとはリアリティ。隠(なばり)の郷という鬼の住む場所が出てきたり、夏に雪が降ったりとファンタジーな面もありますが、日々の風景から地続きになっていると感じられる「リアリティのある嘘のつき方」を意識して制作しました。 ◆音楽面では、管楽器などが多めに使われているように感じました。 そうですね。窪田ミナさんにとても贅沢に音をつけていただきました。ただ、とくに前半では派手に見えるアクションシーンでも、音楽はあまり劇的にはしていません。絵と同じ意味を重ねるのではなく、情感をフォローしていただいてることは多いと思います。 ◆なるほど。 本作では、窪田さんにシーンの意味を汲み取ってもらいながら音楽を制作いただきました。例えば隠(なばり)の郷の音楽。日本的な要素もありつつも、ちょっと多国籍のエキゾチックな感じにしたいと窪田さんに話したところ、絶妙な音楽を作ってくださって。厳しくも魅力的な鬼の世界を見事に表現してくださいました。