新垣結衣「自分のひと言が相手の人生を変えてしまうかもしれない」最新作で不安になった“お手本”としての演技
近年、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、ドラマ「風間公親-教場0-」、映画「ゴーストブック おばけずかん」「正欲」など幅広い作品に出演し、新たな魅力を開花させている新垣結衣さん。早瀬憩さんとW主演を務めた映画「違国日記」では、人見知りな小説家・高代槙生(こうだいまきお)を演じている。プレッシャーよりも槙生を演じられる喜びの方が強かったという新垣さんに、本作への思いや撮影エピソード、さらに10代の俳優との共演で感じたことなどを語ってもらった。 【写真】映画「違国日記」のメイン写真 ■憩ちゃんとの会話が盛り上がって「“今いい時間を過ごしているな”と思ったのを覚えています」 ――本作のお話をいただく前に、原作(ヤマシタトモコによる人気漫画「違国日記」)は読まれていたそうですね。 【新垣結衣】友人に勧められて読んでいて、とても好きな作品だったので、オファーをいただいて驚いたのと同時に、すごくうれしかったです。でも、好きな作品だからこそ自分に対してのハードルを上げてしまいますし、原作ファンの方々はどんな反応をされるかなと、プレッシャーのようなものを感じて。それでもやっぱり槙生を演じられる喜びの方が強かったので、ありがたくお引き受けしました。 ――本作のどんなところに惹かれたのでしょうか。 【新垣結衣】惹かれたポイントはたくさんあるのですが、一番は言葉選びのセンスです。たとえば、吹き出しの外に書かれているセリフにはユーモアがあって楽しいですし、何かを抱えている登場人物たちが、時に楽しい気持ちになったり、時にトラウマに触れたりしながら日々を丁寧に生きていることが、セリフから伝わるんです。そういったリアリティのある言葉選びがすごく魅力的だなと思います。 ――早瀬憩さん演じる朝(あさ)と槙生の関係性は変わっていきますが、距離の取り方みたいなものは最初から最後まであまり変わらず、そこがすごく素敵だなと思いました。早瀬さんとはどんな風に関係性を作っていかれたのでしょうか。 【新垣結衣】彼女は今回が初めての映画主演で、気合いを入れて挑んだと思うんです。そんななかで戸惑うこともあったかもしれない。でも私から見た憩ちゃんは、シャイな部分がありつつもすごく堂々としていて、監督とお芝居について打ち合わせをしているときも、わからないことがあれば物怖じせずに聞いていました。 そしてそれをアウトプットするのがすごく早いので、私自身すごく頼りにしていて。現場ではこちらから話しかけることもあれば、憩ちゃんから何かを聞きに来てくれることもあって、会うたびに喜んでくれるのですごくかわいかったです(笑)。でも、ずっと話しているわけではなく、近くにいてもお互い自分のことに集中している時間もあって、すごくいい空気でした。 ――現場では早瀬さんとどんなお話をされたのでしょうか。 【新垣結衣】撮影期間中は、憩ちゃんがちょうど高校一年生になったばかりで節目のときだったんです。彼女が今感じていることを話してくれることもあれば、私が彼女と同じころはどうだったかを話すこともありました。撮影2日目か3日目に、憩ちゃんから切り出してくれた会話の内容から深い話になって、すごく盛り上がったときに “今いい時間を過ごしているな”と思ったのを覚えています。 ■“歩み寄ろう”と言えるところが好きですし「そんな槙生ちゃんは素敵だと思います」 ――夏帆さん演じる醍醐(だいご)と槙生と朝が、一緒に餃子を作って食べるシーンがチャーミングでとても好きでした。こういったシーンではアドリブ芝居などはあったのでしょうか? 【新垣結衣】餃子のシーンはほとんどアドリブでした。餃子を作り始めるところからは、状況説明しか台本に書かれてなくて、監督も私たちに任せてくださったので、ほぼほぼアドリブ芝居ですごく楽しかったです。 ――槙生と朝だけではああいった雰囲気にはならないですもんね。かき乱すような醍醐タイプの人間がいないと。 【新垣結衣】そうですね。あそこは槙生ちゃんと朝の距離が縮まる大事なシーンなのですが、夏帆ちゃんは現場を明るく華やかにしてくれる方なので、そのおかげであのシーンはああいう空気になったように思います。夏帆ちゃん演じる醍醐の力はすごく強かったですね。 ――ほかのシーンに関してもアドリブは結構ありましたか? 【新垣結衣】そこまで多くはなかったです。ただ、監督がお芝居の雰囲気にナチュラルさを求めていたので、“ここぞ”というシーンでは、「何かないですか」と台本に書いていないものをリクエストされることはありました。でも、餃子のシーンほどの長いアドリブはそんなになかったと思います。 ――公園で醍醐と槙生と朝が歌うシーンもありましたが、すごく自然で微笑ましかったです。 【新垣結衣】そこも大事なシーンで尺も長いので、事前に本読みのときにしっかりとリハーサルをしました。“やりたいと思ったらやるべし!”と、やりたいことへの1歩が踏み出せない朝の気持ちを後押しするために、槙生ちゃんと醍醐が「夢の中へ」を歌い始めますが、歌いながら2人で耳を当てて、朝に合いの手を歌わせるところはアドリブなんです。 台本のト書きには「3人で歌っている」とだけ書かれていたのですが、歌っているうちに自然と夏帆ちゃんとああいう手の動きになって。そしたら憩ちゃんがそれに応えてくれたのでうれしかったです。 ――槙生が朝に「あなたと私は、別の人間だから」と、他人の苦しみや寂しさを理解できないことを話すシーンが好きで、とても印象に残りましたし、あらためて他人との距離の取り方を考えさせられました。 【新垣結衣】私もそのシーンのそのセリフがすごく好きで、原作では確か、その話をしたあとに「私はあなたの気持ちを理解することはできないし、あなたも私の気持ちを理解することはできない。だから歩み寄ろう」って槙生ちゃんは言うんです。最初は人見知りをしてしまうけれど、彼女はファーストコンタクトでちょっと戸惑っているだけで、その先はちゃんと人と向き合っている。 “わかり合えないから”“理解できないから”一緒にいられないと考えるのではなく、“歩み寄ろう”と言えるところがすごく好きですし、そんな槙生ちゃんは素敵だと思います。 ■最近の10代の子たちは「“自分を持っているな”と感じることが多い」 ――漫画「違国日記」には、女性の連帯や基本的人権に関する話などを登場人物のセリフにさりげなく盛り込んで描く場面があります。個人的にはヤマシタトモコさんのそういった作品作りの姿勢がとても好きなのですが、新垣さんが本作や原作のセリフで感化された部分があれば教えていただけますか。 【新垣結衣】今ぱっと思い浮かんだのは、6巻で槙生ちゃんが学生時代の友人の醍醐、コトコ、もつと新年会をしているシーン。コトコが「ワタシレンアイしません。最近決定した。ていうかわかった」と言ったら、ほかの3人が「わかっちゃった?」とか「私も何かわかりたい」って返して、コトコが「お先でーす」って言うんです。コトコの宣言を誰も否定しないし過剰に驚くこともなく、その会話がごく自然に流れていく。 それをさりげなく描いているこのシーンが印象に残っています。大人になっても一緒にいて居心地がいいのは、きっとこういう会話ができるからなんじゃないかなと。感化されたというとちょっと違うかもしれませんが、すごく好きなシーンです。 ――朝ちゃんと同じ15歳のころの自分に会って話ができるとしたら、どんな言葉をかけてあげたいですか? 【新垣結衣】「もっとこうした方がいいよ」みたいなアドバイスははせずに、「この先すごく不安になることがあるかもしれないけど、無事に生きているから大丈夫!」って言うかも(笑)。自分が思うようにやっていってねって。 ――槙生に同じ質問をしたら、新垣さんと同じような言葉が返ってくるかもしれませんね。あまり余計なことを言わないのではないかと。 【新垣結衣】そうかもしれませんね。「15歳はすごく柔らかな年ごろ」だと原作にも映画のセリフにもありますけど、自分のひと言で相手の人生を変えてしまうかもしれない。憩ちゃんは現場で私のことを観察して、すごく参考にしてくれているのが伝わってきたんですけど、自分がお手本になっていいのかと不安で…。 なので、憩ちゃんから相談ごとをされたときは、「あくまでも私はね」っていう話をして、「こうした方がいいよ」といったことは言わないように心がけていたんです。どんなにコミュニケーションを取っていても、先ほどのセリフの通りで、相手が多感な年ごろの場合は慎重に言葉を選ばないといけないなと思いました。 ――早瀬さんとご一緒したことで、何か発見できたことがあれば教えていただけますか。 【新垣結衣】最近は10代の子たちと一緒にお仕事する機会がすごく増えていて、憩ちゃんに限らず、みなさん“自分を持っているな”と感じることが多いです。SNSが当たり前の世の中だからこそ、“自分”というものを持たなくちゃと考えることも多いのかなと想像します。SNSに疲弊したり一喜一憂したり、振り回されるからこそみんな足掻いているのかもしれませんね。憩ちゃんには「そのままで大丈夫だよ」と伝えたような気がします。 ――また早瀬さんと共演していただきたいです。 【新垣結衣】これからも憩ちゃんを見守りつつ、またどこかでご一緒できたらいいなと思っています。 取材・文=奥村百恵 ◆スタイリスト:小松嘉章(nomadica) ◆ヘアメイク:藤尾明日香(kichi) (C) 2024 ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」