トロント国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭、エミー賞のルックを総まとめ!3つのキーワードからベストドレッサーたちを一挙に紹介
まだ暑さを感じる日本だけれど、秋は確実に訪れている。映画祭として世界で最も長い歴史をもつ「ヴェネチア国際映画祭」は第81回を9月7日(現地時間)に、北米最大規模の「トロント国際映画祭」は第49回を15日に、秋麗な余韻を残して閉会した。第76回「プライムタイム・エミー賞」授賞式は、アメリカ・ロサンゼルスで15日に開催され、「SHOGUN 将軍」チームが歴史的な快挙を成し遂げて、名月のごとく輝いた。芸術を称えた祭典のレッドカーペットから、惚れ惚れするような美しいファッションを3つのキーワードからご紹介! 【写真を見る】婚約者の隣で笑顔あふれるレディ・ガガ。ドレスアップ姿も完璧! ■いま、気分なのはブラック・センシュアル 3つの祭典でその美しさが際立ったのは、ブラックのドレス。カラーは黒でもよいのだが、今季レッドカーペットを制覇するには、素肌を感じさせるシアーであったり、レースなどが多用されたり、センシュアルなものであることが必須条件。将来への不安を払拭する明るい兆しや軽やかさを、せめてファッションでは表現したいというグローバルな流れを投影するのが、いまのトレンドだからだ。 ●レディ・ガガ@ヴェネチア 9月4日のヴェネチアでのレディ・ガガは、ディオール オートクチュールのガウンで登場。スカートのボリュームやヘッドピースのドラマティックさをもってして、ガガ様らしさを忘れないのに、バスト、ウエストより上のデザインはとてもシンプルかつ素肌感の加減が完璧だから、とてもいまっぽい。フィアンセの横で晒す、幸せそうな“素顔”とも相まって、とても美しかった。 ●ダイアン・クルーガー@トロント カンヌにも参加していたホラー映画『The Shrouds』に出演したダイアン・クルーガーも、ブラック・センシュアルを制した1人。ドルチェ&ガッバーナのルックは、トップがシルクで、ボトムズがレース。ブラックでもライトな素材を取り入れることで軽やかさを、ジャン・シュランバージェによるティファニーを合わせることで洗練さを演出した。なによりよかったのは、ヘッドもブラックレースのヴェールで包んだこと。このヴェールは、ランウェイでの発表時にオリジナルのルックにもついているのだが、ヴェールの密度などを変えて、彼女用にカスタムしている。彼女に合わせた、このアイテム抜きでは“高級リゾートでのビーチ、またはプールでは素敵だろうけど!”なレベルでおさまってしまっていたかもしれない。ちょっとした工夫が、全体のコーディネートを何倍もグレードアップできることの好例。 ●コニー・ブリットン@エミー賞 エミーのレッドカーペットでは、ブラックドレスを選んだセレブは少なかったとはいえ、傑出したコーディネートで魅せたのは、コニー・ブリットン。北米のテレビドラマ・ネットワークで欠かせない女優であるブリットンは、何度もエミーにノミネートされていて、今回はプレゼンターとして登壇した。ヴィンテージのアレクサンダー・マックイーンのドレスは、一部にフラワーと思われるビジューをあしらったベアトップ。ヘアをダウンしてウェービーにしたところが、ドレスの裾のドレープとマッチして、動きがあってよかった。ウェールズ公妃キャサリンもファンだという、ブラジル人デザイナーのシューズブランド、アレクサンドル・バーマンのヒールもステキだった! 一方、トロントでは、クルーガー以外にも、麗しいブラックドレスを選んだセレブが多数。 ●カイア・ガーバー もはや母・シンディ・クロフォードのバーター出演とは呼ばせないほどに存在感を増しているモデルのカイア・ガーバーは、9月10日のプレミアで、ヴィンテージのドナ・キャランをチョイス。大胆な胸元より、凝視しないとわからないぐらいの素材の透け感が絶妙でよい! ●モーゼス・イングラム AppleTVの「レディ・イン・ザ・レイク」でナタリー・ポートマンと共演した、モーゼス・イングラムは、パリやミラノで評価されているインド人デザイナーのブランド、ラーフル・ミシュラを着用。ビジューやデザインもステキだし、今季のトレンドであるターバンもしくはフードを自分らしくアレンジしたのがよい。 ●ナオミ・ワッツ あえてキメキメにならないバランスを重視したのだろうが、“洗いっぱなし”なヘアスタイルとソックスなど足元がトータルコーディネートとしてはカジュアルかなと思いつつも、ドレスは文句なしにステキな、ナオミ・ワッツのルックもよかった。ドレスはクリスチャン・ディオールのもの。このスタイリングなら、ストリートでも取り入れられそう! ●セレーナ・ゴメス 自身のコスメブランド、レア・ビューティーが大成功しているセレーナ・ゴメスは、演技のほうでも評価され、各所から引っ張りだこ。トロントでは『Emilia Pérez』のプレミアで、エミーでは「マーダーズ・イン・ビルディング」でノミネートされて登壇した。いずれも、ジュエリーはティファニーを合わせたブラック・センシュアルを選んだ。トロントでは、デコルテの花が神々しいロダルテ、エミーではシルエットが華麗なカスタムのラルフ・ローレンをピック。内側から自信があふれ、ライフスタイルだけでなく、ファッションでも人々をインスパイア中! ■ジョナサン・アンダーソンによるロエベ その卓越されたデザインで、ルックや起用するアンバサダー、そして身に着ける人を最旬アイコンにしてしまう、いまもっともホットなブランドといえば、ジョナサン・アンダーソン率いるロエベ。 ●グレタ・リー@エミー賞 「ザ・モーニングショー」でノミネートされたエミーでのグレタ・リーのルックには、ガーゼを彷彿させる軽やかな白のレースがふんだんにあしらわれており、首元のデザインには個性が光る。 ●テイラー・ラッセル@ヴェネチア ヴェネチアでのテイラー・ラッセルは、9月3日に着用したブラック・センシュアルなロエベのルックが最も洗練されていて、彼女の魅力を引き出していた。さすが、アンダーソンがミューズと謳っているだけある。 ●ダニエル・クレイグ@ヴェネチア 同日、ロエベを着用して最も話題になっていたのは、ダニエル・クレイグ。奥様のレイチェル・ワイズもステキだったけど、ワイズのフルコースな正装と対比させるためか、ラフなグルーミング、サングラス、ノータイと潔い。ディテールだけみるとドレスドダウンだけれど、ロエベ特有のクワイエット・ラグジュアリー感をもってして、カジュアル過ぎにみえない。 この3人は、ロエベのキャンペーンにも登場しているから予想通り…なのだが、ふたりの巨匠監督にもロエベがすごく似合っていて、うれしい驚き! ●ルカ・グァダニーノ@トロント ダニエル・クレイグ主演の『Queer』のルカ・グァダニーノ監督は、9月9日のトロントで、オリーブ・モスグリーンが美しいセットアップを着用。 ●ペドロ・アルモドバル@ヴェネチア ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアが主演を務める『The Room Next Door』で、金獅子賞を受賞したペドロ・アルモドバル監督は9月2日、ピンクが鮮やかなダブル・ブレストのセットアップで登壇。アンダーソンは、単にアップカミングなセレブに着せるだけでなく、斬新で上品なカラーパレットを用いることで、デザインをモダンで新鮮にみせるのが巧い! ■自分らしさの表現にルーツは欠かせない ●カーリー・レイス@エミー賞 シリーズ最高傑作と呼び声の高い「トゥルー・ディテクティブ」のシーズン4にあたる「ナイト・カントリー」。ジョディ・フォスターがリミテッドシリーズ部門の主演女優賞を獲得したが、彼女がスピーチでふれたように、アラスカを舞台にした本作の成功は、アメリカ原住民と先住民の血をひくカーリー・レイスのサポートなしでは成立しなかっただろう。惜しくも受賞はNetflix「私のトナカイちゃん」のジェシカ・ガニングに譲ったが、本人も助演女優賞にノミネートされ、その知らせが来た時から、インディジアスなブランドを選ぶことを決めていたと、とあるインタビューで答えている。当日のルックは、白とパープル。ネイティブアメリカンの東部部族の伝統的な貝殻ビーズからインスパイアされたカラーパレットで、特にアクセサリーは自身のルーツにゆかりのあるものにこだわったそう。 ●リチャード・ガット@エミー賞 「私のトナカイちゃん」で脚本・製作・主演を務め、いずれもエミー賞を受賞する偉業を果たしたリチャード・ガットも、自身の出身をファッションで表現したひとり。上半身は、タキシードスタイルでレッドカーペットスタイルの王道を踏襲し、下半身はスコットランドキルトを合わせた。また、本作は彼が受けた暴行とストーカー行為という実話に基づいているため、イギリスで活動する団体のスローガン、“We Are Survivors(私たちは生き残った者)”と書かれた白いピンをジャケットのラペルに付けた。この日のルックは、ガットにとって、ステートメントファッションでもあったのだ。 ●アンナ・サワイ&中田クルミ@エミー賞 エミー賞では、「SHOGUN 将軍」が作品賞や監督賞、日本人男性として初となる真田広之による主演男優賞、アジア人女性として初となるアンナ・サワイによる主演女優賞をはじめ、エミー史上最多である18もの賞を獲得し、その快挙にいとまがない。アンバサダーに就任したカルティエのジュエリーに、真っ赤なヴェラ・ウォンを合わせた鞠子様ことサワイも晴れ晴れしかったけれど、このチームからは、浅野忠信の妻で、俳優の中田クルミが着物でレッドカーペットへ参加。 色留袖にあしらわれたのは大名行列のデザインで、徳永家康がモデルになっている真田演じる吉井虎永が大阪から網代へ向かう一行に見立てているという。水色と紅色のカラーパレットも、SHOGUNのメインビジュアルに合わせたとのこと。組み合わせたルイ・ヴィトンのクラッチには、本作に何度か登場する縄柄を取り入れるなど、単に自国のルーツを表現しただけでなく、招待された意図をくみ取ってスタイリングでストーリーを演出するのはステキ。和服であっても、洋服であっても、それがファッションの真髄ですもの! 文/八木橋恵