社説:袴田さんの捜査 第三者の検証が不可欠
なぜ無実の死刑囚を生み、58年もの歳月を奪ってしまったのか。その重大性への反省を欠き、二度と同じ過ちを繰り返さないという真摯(しんし)な姿勢が感じられない。 1966年の静岡県一家4人殺害事件で、再審無罪が確定した袴田巌さんに対する捜査や裁判手続きの検証結果を、最高検と静岡県警がそれぞれ公表した。 静岡地裁が昨年9月の再審判決で「非人道的」と指弾した取り調べについて、最高検は「検察官が犯人であると決め付けたかのような発言をしながら自白を求めた」と認め、県警は深夜まで長時間に及ぶ取り調べが「不適正だった」とした。 しかし、判決で認定された捜査機関による「証拠の捏造(ねつぞう)」については反発し、自己弁護に終始している。 事件の約1年2カ月後にみそタンクから見つかり、犯行着衣とされた5点の衣類の捏造に関し、最高検は「現実的にあり得ない」と強く反論した。だが、具体的な根拠は示しておらず、感想に等しい。まったく説得力がない。 最高検は、公判資料などにとどまり、当時の検察官らに新たな聞き取りもしていない。責任の所在も明確ではなく、何を検証したというのか。 県警は、当時の捜査員らから聴取したが、捏造の具体的な事実や証言を得ることができなかったと結論付けている。 再審手続きの長期化についても、踏み込み不足が目立つ。袴田さんは、最初に再審請求を申し立ててから開始決定まで42年を費やした。 最高検は第1次、第2次の請求審の対応に問題はないとし、2014年の再審開始決定を不服とした抗告も必要だったとして、「不当に長期化したとは認められない」という。長期化の要因には、裁判所が積極的に審理する方策が十分でなかったことを挙げた。 居直りと責任転嫁ではないか。 罵声を浴びせる、自白を強要するといった取り調べはいまも相次ぎ、問題化している。 取り調べ中の録音・録画が十分な抑止にもつながっておらず、旧態依然の状態が残っていることを、捜査機関は直視しなくてはならない。 判決から3カ月の検証結果はおざなりで、内部調査では限界があることが浮き彫りとなった。第三者の視点を加えた本気の検証に取り組まねば、地に落ちた国民の信頼は取り戻せまい。