「カルチャー帝国」築く高級ブランドのしたたかさ ルイ・ヴィトンの「衝撃人事」が示す異変とは?
■ファッションブランドは、「カルチャー帝国」の構築へ 一方、新しいデザインの服や小物といった「モノそのもの」や目立つロゴが、以前ほどの魅力を持たなくなった状況を受けて、独自の「カルチャー帝国」を築くことでアイデンティティーを確立する方向を鮮明に打ち出すブランドも出てきた。ルイ・ヴィトン メンズが筆頭格といえよう。 2023年2月、ルイ・ヴィトン メンズのクリエイティブ・ディレクターに就任したのは、ファレル・ウィリアムスだった。爆発的ヒットとなった2013年の彼の曲「ハッピー」を記憶されている方も少なくないだろう。
音楽シーンで名をはせてきたとはいえ、ファッションの現場の経験が豊富というわけでもなかったため、業界内では衝撃が走った人事だった。 ファレルのデビューを飾った2024年春夏のショーは、パリ最古の橋であるパリのポン・ヌフを舞台に開催された。 セーヌ川を封鎖してポン・ヌフの端から端までをランウェイにするという壮大な会場に、ファレルの友人であるセレブリティが世界中から駆けつけ、「ハッピー」なコレクションは大成功をおさめた。
彼の役割は、デザイナー、プロデューサーだけでなく、ブランドのアンバサダーにしてセレブコミュニティーとブランドをつなぐ広報官でもあった。ルイ・ヴィトンは、ファレルを中心とするポップカルチャー・セレブリティー文化圏をがっちりと取り込んだことを示した。 親会社LVMHは世界最大のラグジュアリー・コングロマリットで、会長のベルナール・アルノーはイーロン・マスクと世界一、二の地位を争う富豪だ。 1980年代には不動産業に携わっていたアルノーは、40年かけて70を超えるラグジュアリー・ブランドを傘下に収め、アート、ストリート、テクノロジーの文化圏も取り込んできた。
アルノーは不動産業の知見を生かし、パリやニューヨークの一等地の不動産を買い続けてブランドの店舗を設置。傘下ブランドの新しい店舗が増え、ショーウィンドウやPRを通して存在感を増している。 ■K-Popの巨大なファンダムを取り込む 「文化圏」を背負うアイコンとの連携という意味では、ファンダム(熱狂的なファンのコミュニティー)をもつタレントをブランドアンバサダーにするという戦略も定着した。 とくにハイブランドとK-Popスターとの結びつきは顕著で、BLACKPINKのジスはディオール、ロゼはサンローラン、リサはセリーヌ、ジェニーはシャネルのアンバサダーを務める。そうすることで、ブランド側はタレントの背後に控える巨大なファンダムにリーチできるのだ。