【MotoGP】ホンダの大エースはいかにドゥカティファクトリーライダーになったのか。MotoGP王者マルク・マルケス激動の4年半を振り返る
■ドゥカティでの走りが注目
■2024年3月24日:未来のチームメイトと一触即発 ドゥカティの人間は2023年シーズンの後半を通じて、もしマルケスが陣営に加わればライダーの生態系に何が起こるか分からないと警戒していた。そして第2戦ポルトガルGPでは「それ見たことか」と言わんばかりの出来事が起きた。MotoGPを2連覇中のドゥカティファクトリーライダー、フランチェスコ・バニャイヤと接触したのだ。 バニャイヤはこれをレーシングインシデントだとした一方で、マルケスは「バニャイヤのせい」だと断罪したのだ。思い返せば、これはマルケスがドゥカティ加入後に見せた最初の“パワープレイ”だったと言える。 ■2024年4月28日:全盛期のマルケス、復活 マルケスはヘレスで行なわれた第4戦スペインGPでキャリア通算93回目のポールポジションを獲得。決勝レースではバニャイヤと0.3秒差の2位に入り、マルケスがついにドゥカティで勝てるところまで来たところをまざまざと見せつけた。 理論上は、ファクトリー体制のバニャイヤの方が良いバイクを持っていると言える。しかしマルケスの勢いは止まらず、接触もありながら優勝を争った。最終的に勝ったのはバニャイヤだったとはいえ、マルケスがドゥカティの経営陣に注目される契機となったのは間違いないだろう。 ■2024年5月26日:ファクトリーチーム行きへの説得力を増す それからマルケスは、フランス、カタルニアと連続で表彰台を獲得。3戦連続表彰台は彼にとって2019年以来であった。また、スプリントでも安定してトップ3フィニッシュを記録した。 特にカタルニアは圧巻だった。予選で14番手に沈みながら、スプリントは2位、決勝は3位まで追い上げたのだ。 ドゥカティは続くムジェロでのイタリアGPを、来季のバニャイヤのパートナーを誰にするかを決めるひとつの試金石として意識し始めた。当然、2023年にランキング2位となって今季はポイントリーダーに立っているホルへ・マルティン(プラマック)の活躍は目覚ましかったが、マルケスがわずか6戦で見せた輝きも捨てがたかったのだ。 ■2024年5月30日:ファクトリー行きはマルティンの方向に……しかしマルケス動く イタリアGPの前日、ドゥカティはマルティンをファクトリーチームに昇格させる決断をしたとされている。 そしてマルティン、マルケスの両者にドゥカティから条件が提示された。motorsport.comの調べによると、マルティンはファクトリチームに昇格、マルケスはプラマック移籍でファクトリーバイクを使用。ただしマルケスが今季のタイトルを獲得した場合は条件が変更される……というものだったという。 しかしマルケスはそれに納得していなかった。彼はプラマックが「選択肢にない」とメディアに公然と語ったのだ。 マルケスはグレシーニに残ってファクトリーバイクの提供を受けるか、ワークスチームに移籍することを望んでいた。しかしながら、ファクトリーチームにはマルティンが昇格予定。そしてプラマックが来季もドゥカティと契約を続ける場合にはファクトリー体制の独占条項を持っているため、グレシーニがファクトリーバイクを得ることは難しい……そんな状況にあった。 ■2024年6月3日 状況一転、マルティンがアプリリアへ。マルケスのファクトリーへの道が開ける マルケスをライバルメーカーに奪われることを考えたドゥカティは、6月2日の午後にマルティンにファクトリーチームのシートを与えられないことを伝えた。 マルティンはアプリリアへ直行。2025年にイタリアのメーカーで走る契約を月曜日に交わした。 ドゥカティからの公式発表はこの日行なわれなかったが、マルティンの移籍発表は必然的に、マルケスのファクトリーチーム昇格を意味していた。 ■2024年6月5日 ドゥカティ、マルケスのファクトリー昇格を正式発表 ドゥカティからの公式発表がないまま火曜日が過ぎ、メールボックスの受信トレイに釘付けになっていた者も多いだろう。 そして水曜日の朝、ドゥカティはマルケスがファクトリーチームと2026年末までの2年契約を結んだと発表した。 「来季のMotoGPで、ドゥカティのファクトリーチームの赤いユニフォームを着られるということが、とても嬉しい」 マルケスはそうコメントした。 「デスモセディチGPと初めて出会った時から、乗るのが楽しくて、すぐに順応することができた」 「その瞬間から、僕の目標はこの道を進み続け、成長を続け、フランチェスコ・バニャイヤが2年連続で世界チャンピオンになったチームに移籍することだと分かった。2025年にこの大きな一歩を踏み出せることを嬉しく思うし、ドゥカティが僕に寄せてくれた信頼に感謝している」 「最後に、キャリアの微妙な時期にチームへの扉を開いてくれたナディア(パドヴァーニ)、カルロ(メルリーニ)、ミケーレ(マシーニ)、そしてグレシーニ・レーシングの全員に感謝したいと思う。今シーズンの残りを楽しみながら、全力を尽くす。それが、今の僕の最優先事項だ」
Lewis Duncan