ロッテ吉井監督が実践する「教えないコーチング」の神髄、「自主性」と「主体性」はどう違うのか
■ 選手に求めているのは「主体性」 対話によって、選手が自身の考えを口にする機会を作り、それぞれの課題や目指していくものを認識するための気づきを与える吉井監督。コミュニケーションを大切にしているのは、選手の「主体性」を引き出すことを最重要視しているからだ。 吉井監督は「主体性」について以下のように語っている。 あくまで僕の感覚的なものかもしれないが、「自主性」と「主体性」には、言葉のニュアンスに違いがあると思っている。いずれも周りの干渉を受けずに行動するという面では一緒だと思うが、自覚、意思を持ちながら他人に頼ることなく自らの考えをまとめ、それをベースにして率先して行動していくことが「主体性」だと考えている。僕が選手に求めているのは、そうした思考、姿勢を身につけることだ。 野球の技術だけではなく、選手に1人の人間として成長をしてもらうことを願っているようにも見える。 ■ 「勝利至上主義」の落とし穴 日本では野球の競技人口は減少傾向だという。米国のように一定の競技人口が維持できているならば、代わりの選手はたくさん出てくるかもしれない。しかし日本の場合、限られた選手を根気よく育てて行かなければならない。 吉井監督は、一方的な指導による選手育成について以下のように警鐘を鳴らしている。 勝利至上主義の中で育ってきた選手は、指導者の言葉が絶対で、自分で考えることを止め、指導者に言われたことしかできない選手になってしまう。だがプロで長年にわたり活躍できるような選手に育成していくには、主体性を持たせるということを避けて通ることはできない。
■ 野球界の常識にとらわれずチャレンジする 吉井監督は就任する際、マネージメントやチームビルディングについて勉強するために関連書籍を読み漁ったという。多くの本に目を通す中で、さまざまな人の意見を聞きながら物事を決めていく「聴く監督」の姿勢が定まったようだ。 前述した「選手との壁を作らない」というのも、対話のためだけではなく、チームの勝利を実現するため、立場の違いに関係なくお互いの意見を出し合える場を作る目的もある。 監督は「選手、そしてチームにとって有益だと思うことがあれば、野球界の常識から逸脱していても、積極的に取り組むべきだと考えている」と語っている。実際に彼は筑波大学大学院でコーチングと心理学を学んだり、メジャーリーグで取り入れられている「データを最大限に活用するコーチング法」の導入を試みたりと、傾聴以外にも数々の新しい手法を試みている。 多様な意見を拾い、多角的な視点から挑戦を続ける監督の姿は、「聴いて、吸収して、チャレンジする監督」と言ってもいいかもしれない。
東野 望