防災小説を書いて災害を自分ごとに、全国の学校で広がる 自分が主人公の物語をつづり災害への備え
災害が起きたことを想定し、自分を主人公にした物語「防災小説」を書く取り組みが、全国の学校を中心に広がっている。その時、周囲にどんな被害があって、自分は何を考え、どう動くか―。具体的に想像して文章にすることでその災害を自分事として捉え、事前の備えにつなげることができるという。考案者の慶応大准教授に防災小説の狙いや書くときのポイントを聞いた。 【表】防災小説とは
どんな被害? 助かるにはどう行動する?
家の入口に置いてあった持ち出し袋を持って3人で高台へと走った。国道321号線をはさみ、老人ホームがある。そこでは、たくさんの車と人で混雑していた ここから一番近い避難場所といえば春日神社だ。そこまで走れば約3分 これらは防災小説の一部。高知県南西部の太平洋沿岸のまち、土佐清水市の清水中の生徒が書いたものだ。同市は南海トラフ巨大地震で30メートルを超える津波が到達すると予想される。 この中学校で小説作りを提案したのが、防災小説の考案者、慶応大の大木聖子准教授(地震学)だった。「小説といっても、物語として上手かどうかは重要ではない。災害を日常の延長として考え、自分の言葉で描くことが大切」と話す。2016年に同中学で始まった取り組みも、現在は愛媛や東京、北海道など各地に広がる。 小説は、巨大地震が発生したというシナリオで、自分が主人公の物語を800~1200字程度でつづる。普段その時間は自分や家族が何をしているか▽災害が起きた時はどんな気持ちか▽街や周りの様子はどうか▽助かるためにはどうすればいいか―などを盛り込んでいく。唯一のルールは「物語は必ず希望を持って終えること」だ。 例えば、「死者0人」や「家族と避難所で再会できた」などと自分にとって理想の結末を据える。そのためには、被害の想定や避難ルート、避難所での様子なども必要となる。
家族や地域の人と共有、専門家の想定を「うそにするために」
「大きな地震は中国地方でも起こり得る。自分のこととして考えてほしい」と大木准教授。2月中旬には広島県福山市の盈進中・高でも防災に関する講座を開き、備えの大切さを伝えた。 さらに、大木准教授は出来上がった小説を家族や地域の人たちにも発表し、共有することを勧める。「小説に出てくるのは自分の住む町の具体的な場所や身近な人など、実在する世界。その地域の物語だからこそ、自分もそこにいると想像できる」と話す。 取り組んだ学校の生徒からは、「小説がきっかけで家族と防災対策を話した」「他の季節に被災した時のことも考えなければいけないと思った」などの反響があったという。 国は南海トラフ巨大地震について、マグニチュード(M)8~9級の巨大地震が今後30年以内に起こる確率を70~80%と算出。10メートル以上の津波などによる全国の死者が最悪の場合、約32万人に上ると想定している。 大木准教授は「専門家が出したこの想定が未来の予想図ではなく、それをうそにするために何ができるのか。自分の言葉で書き、行動してほしい」と力を込めた。
中国新聞社