エネルギー小国日本の選択(18完) ── 廃炉、処分地、未来のエネルギー
廃炉に向けて
2017年9月、東京電力ホールディングスと政府が福島第1原発廃炉に向けた工程表となる「中長期ロードマップ」を改定した。1、2号機のプールに残存する使用済み核燃料を取り出し始める時期を、2020年度とした従来計画から2023年度目処へと先送りするなど、工程の遅れが目立った。2011年12月のロードマップ策定以降、改定は4回目だ。廃炉作業は今後も難航が予想される。 技術の継承や人材の確保は深刻な課題だ。事故を受け、原子力を学ぼうとする大学生らは減少傾向が見られる。熟練技術者は高齢化も進み、退職を控える。そうした中、汚染水が建屋内に入り込むのを防ぐ凍土遮水壁の計画、工事など作業は複雑さを極めている。 原発専業の日本原子力発電を、廃炉関連の専門会社にしてはどうかという議論もある。原電は日本で初めて商業原発を手掛け、国内初の廃炉も原電の発電所だ。原子力分野の草分け的存在で、廃炉を含むノウハウに定評がある。一方、震災後に全原発が止まり経営状況が厳しく、再建が危ぶまれている。
エネルギー情勢の変化
この連載では、エネルギー業界、企業を取り巻く環境や社会意識の変化を見てきた。発端は、今まさに議論されている日本のエネルギー政策、基本計画の将来像を見据えるため、過去を振り返ることにあった。 政策を協議する経済産業省は「エネルギー選択の大きな流れ」とした資料で、戦後の日本のエネルギー源が石炭から石油へと変わり、その後の石油危機で資源価格や電気代が高騰し、教訓から脱石油資源、そして温暖化対策のために省エネを進め、現在に至ると説明した。その流れの中で、原発が果たしてきた役割も強調している。 エネルギー基本計画の基準年となる2030年は「実現重視」を掲げ、温暖化対策の国際的枠組みのパリ協定が目指す2050年に向けては「あらゆる可能性を追求」としている。将来像は2018年春夏頃に方向性が出る。 この1年だけでもエネルギーの情勢は、国内外でめまぐるしく変わった。原発を見れば、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)が再稼働し、事故を起こした東京電力として初めて柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)が原子力規制委員会による審査に事実上合格した。他方で12月13日、広島高裁が四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の運転差し止めを決定した。「火砕流が到達する可能性が小さいとは評価できず、立地に適さない」と判断し、業界には「まさか」と衝撃が走った。 エネルギー業界は競争が進んだ。2016年春の電力小売り全面自由化に続き、2017年春にはガスも自由化した。かつて協力関係にあった電力、ガス同士が敵対し、業種や地域を越えて提携する構図も目立った。石油元売り業界はガソリンなど石油需要の先細りを見据え、経営合理化を急ぐ。欧州や中国、インドでは電気自動車(EV)の本格普及の兆しがあり、対照的に日本の出遅れ感も色濃い。 政府が現実を踏まえて検討したいとする2030年のエネルギーは、原発の扱いをどうするかといったテーマの比重が自ずと大きくなる。ただ、その更に20年先、「あらゆる可能性を追求する」という2050年に向けては、採算性は別として、将来性のあるエネルギーに関する議論もあり得る。発電方法1つ取っても、例えば、海の波を利用した波力発電や大規模太陽光発電所「メガソーラー」の上を行く「ギガソーラー」、もっと言えば、宇宙空間で行った太陽光発電の電気を地球上に届けるといった「宇宙太陽光発電」などだ。 有識者らによる今の議論は、世界中で再生可能エネルギーが普及している現状の追認や背景分析、あるいはデンマークのオーステッド社(エルステッド社とも)がかつての石油事業から再生エネルギーに軸足を移した成功例などの紹介が多い。そうした検証は勿論重要だが、2018年前半にも方向性が出ると期限が見えているだけに、より広範なテーマの取り扱いと議論の加速が期待される。