実在の事件から着想した4つの物語、「台湾・クライム・ストーリーズ」が浮かび上がらせる人の心が生み出す光と闇
近年盛り上がりを見せている台湾映画・ドラマをWEBザテレビジョンで大特集。近年、高クオリティーで見ごたえがあると注目を集めている台湾サスペンスから、「台湾・クライム・ストーリーズ」(ディズニープラスで配信)を紹介する。実際の事件をもとにした4つのクライムサスペンスには、家族の絆、支配、愛、欲望、友情、エゴ、自分なりの正義などがぎゅっとつまっていて、見るものを飽きさせない。光と闇の混在、丁寧に心情が描かれた立体的な人物像といった台湾サスペンスの魅力を堪能できる作品だ。 【写真】実際の事件をもとにした「台湾・クライム・ストーリーズ」 ■豪華な俳優陣のなか、金鐘奨で長編ドラマ主演男優賞に輝いたのは? 台湾で実際に起きた事件をもとにしたクライムサスペンス。4つのストーリーで構成されていて、1つのストーリーは3話で完結する。列車脱線事故に絡んだ保険金詐欺事件、一家惨殺事件、小学校教師殺人事件、軍事基地で発生した幼児殺害事件を核とした、全12話の濃密なミニドラマシリーズだ。 リディアン・ヴォーン、ワン・ポーチエ、チェン・イーウェンら、豪華俳優陣が熱演を繰り広げているが、1つ珍事が起きている。台湾で権威のある賞の1つ金鐘奨において、本作シリーズの1つ「脱線(原題:出軌)」で準主役を演じたシュエ・シーリンが、その演技を評価されて長編ドラマ主演男優賞に輝いたのだ。「脱線」のなかでクレジットが3番目(しかも3・4番目は並列表記)だったにもかかわらず主演と評された、シュエ・シーリンの素晴らしい演技にも注目したい。 ■正しい道から脱線してしまったのは誰なのかを問う「脱線(原題:出軌)」 近年多発していた列車の脱線事故で、ついに死者が出た。保険会社で保険調査部の係長をしているウェンチン(アリソン・リン)の夫も、事故に巻き込まれた1人だ。頭蓋内出血で緊急手術を受けたものの、昏睡状態が続いている。 多発している脱線事故は、線路に木の板が放置されていたなどどれも原因が似通っており、警察は同一犯による犯行を示唆していた。ウェンチン夫婦と旧知の仲であるアメリカ帰りの検事チェンラン(リディアン・ヴォーン)は、これはただの事故ではないと感じて保険金詐欺を疑う。 夫の状態に動揺しながらも、チェンランの調査に協力するウェンチン。しかし、夫の持ち物に列車の切符がなぜか2枚あったり、見覚えのないライターがあったりすることにモヤモヤが晴れない。その上、出張だといって出かけた夫が実は休暇中であったことを知り、夫が不倫をしていたのではないかと疑うようになるが……。 長編ドラマ主演男優賞をとったシュエ・シーリンは、脱線事故の犯人だと疑われる兄弟の兄のほうを演じている。 ■一家惨殺事件の真相にせまる「死とともに生きる者(原題:生死困局)」 15年前、イエ家の人たちが惨殺された。幼い娘2人を含む家族5人が命を奪われ、生き残ったのは長男だけ。犯人として逮捕されたのは、護衛としてイエ家に雇われていた暗殺者のシェン(フレデリック・リー)だった。 事件から15年、シェンの再審請求が認められた。シェンの弁護士は、最新のDNA検査結果によりシェンが一家を殺害した犯人ではないことを法廷で証明すると明言する。そのような状況下、刑務所にいるシェンのもとに新聞記者のリー(ワン・ポーチエ)が面会にやってきた。シェンが描いた絵を養護施設に寄付している件について、取材をしたいと申し入れていたのだ。 しかし、リーが聞きたいのは、もちろんイエ家惨殺事件について。養護施設の子どもたちからの質問だと称してきわどい質問をし続けるリーは、自分が殴られれば新聞が売れる、殴ってもらえると有難いとシェンを煽る。シェンは、イエ家の人たちを殺したのは自分ではないと主張するのだが……。 ■犯人たちの鬱屈しながらも輝かしい青春が胸に痛い「罪の重さ(原題:惡有引力)」 シンフー小中学校の教師であるユーシュアン(ビビアン・ソン)が、学校の地下駐車場で殺された。普段は車で通勤していないユーシュアンだったが、事件のあった日は父親の誕生日ケーキを取りにいくため車で学校に行ったのだ。 ユーシュアンの父親は、ベテラン警察官のワン(チェン・イーウェン)。被害者が家族ということで公の捜査から外されてしまったものの、娘を殺した犯人を絶対に探してやると連日泊まり込みで捜査に打ち込む。一方、ユーシュアンの妹であるチョンフイ(ビビアン・ソンが2役)は、姉の死を自分のせいだとして自らを責めていた……。 本作は、ワンが事件の犯人を捜す話ではあるのだが、視聴者には事件が起きた時点で犯人が明かされている。というよりはむしろ、全3話のうち最初の1話はまるまる、犯人側の事情や日常、犯行に至るまでの経緯を丁寧に描くことに使われているのだ。犯人は誰なのかという謎解き的な楽しみはないが、犯人側にも肩入れしてしまうぶん、ヒューマンドラマとしての見応えは増している。 ■兄弟の行く末に手に汗握る「黒い潮流(原題:黑潮之下)」 ならずもののチャン・ミンジエ(フー・モンボー)は、組織のボスからヘロインを盗んだことで仲間に追われている。違法薬物販売で警察にも指名手配されている彼は、兵役のため軍隊で兵士をしている弟を頼ることにした。 亡き母が眠る納骨堂で弟を待ち伏せしていたミンジエは、弟の手引きで首尾よく基地内の空き兵舎に忍び込むことに成功する。ところが、2人は空き兵舎の一角で、左目をくり抜かれた幼児の遺体を見つけてしまうのだった。事件の容疑者にされてしまった弟は、上官たちから取り調べという名の壮絶な拷問を受ける。一方ミンジエは、弟を助けるために事件の真犯人探しに乗り出すのだが……。 プリン頭&無精ひげが生えているミンジエと、髪の毛を短く刈り上げて仲間へのいじめを見過ごさない真面目な弟との対比が鮮やかだ。基地という閉ざされた空間・人間関係のなかで、権力や自分勝手な正義が暴走する恐ろしさをひしひしと感じた。 ■感情を揺すぶられる台湾サスペンス 事件というのは、どれも人の手で引き起こされる。同様に、事件による影響を生み出すのも、事件によってその後の人生に影響を受けてしまうのも、また人だ。台湾サスペンスでは、その当たり前のことが非常に大事にされているように思う。 人物の心情や事情、心にやどる光と闇がしっかり描かれているため、事件も登場人物も単なるうすっぺらな物語の舞台装置としてではなく、リアルな存在として感じることができる。本作においては特に、実際に起きた重大事件をもとにしているということもあり、より一層リアルだ。 そのぶん、本作ではほろ苦い結末も多い。その苦さや、苦さのなかにある光の部分、そして登場人物たちに感情移入をするからこその激しい心の揺れも台湾サスペンスの魅力だ。