<芽生えの春・有田工センバツへ>第2部/5止 大雨の被災者 選手に感謝とエール /佐賀
「練習できる状況ではない。何かできることはないか」。2021年8月15日、有田工野球部の梅崎信司監督や選手、保護者ら約50人は武雄市朝日町に向かった。同11日に降り始めた記録的な大雨によって、市内の六角川2カ所が氾濫するなど被害が広がっていた。 同市出身の選手16人のうち上原風雅主将(2年)や犬塚康誠選手(1年)の自宅は床上浸水。野球部を引退した3年生や保護者も加わり、武雄中学校や地元の朝日少年野球団などと協力しながら被災地を回った。 同市朝日町の合田晴美さん(65)の自宅は1990年、2018年、21年と3回目の浸水だった。18年は自宅のかさ上げで被害は少なかったが、21年は床上20センチまで水につかった。駆けつけた選手たちは「重い物でも遠慮なく言って下さい」「次は何を運びますか」と食器棚や冷蔵庫などを自主的に搬出してくれたという。 当時は新型コロナウイルスの影響でボランティアの集まりが例年より遅れていた。妻恵美子さん(63)さんは「水につかった家具などを外に出さないと家の中が片付かなかった。自分たちで出せるものは出すけど、重たい物を運ぶには力がいった。選手たちには感謝です」と語る。合田さんは選手たちのセンバツ初出場に「『大雨の時に助けてくれた子どもたちだ』と分かって自分もうれしかった。甲子園では悔いの残らないように精いっぱい頑張ってほしい」、恵美子さんも「緊張するかもしれないけど自分の力を出し切ってほしい」とエールを送る。 武雄市は21年夏の大雨で床上浸水1183件、床下浸水579件の大きな被害が出た。22年2月28日、上原主将ら8人は、選手たちに祝意を伝えたかった小松政・武雄市長にセンバツ出場の報告をした。小松市長は「被災地で野球部の皆さんが復旧作業を一緒にしている姿を見て頼もしく思った。厳しい状況だからこそ皆さんが希望の星。みなさんのワンプレーワンプレーが市民を元気づける、勇気づける」と激励した。 選手たちは被災地でのボランティアだけでなく、毎週金曜午前7時半から約30分間、学校周辺で「おはようございます」と地域の人にあいさつしながらごみ拾いをする。梅崎監督は日ごろから「愛される選手になりなさい」と指導していて、ごみ拾いなど日々の地域貢献が被災地での活動にもつながった。 仲間に助けてもらった犬塚選手は「家が被害を受けてすぐにチームメイトや保護者が来てくれた。仲間の大切さを実感した」と振り返り、山口駿介選手(2年)は「被災者に喜んでもらえたのでボランティアをして良かった」と話す。犬塚選手や上原主将は「甲子園では武雄を盛り上げるようなプレーをする」と意気込む。被災者の感謝の思いも背負い、センバツでは有田工らしい野球をみんなに届ける。【井土映美】=第2部終わり