「学校に入れてやらんぞ」 障害のある子の就学相談で「人権侵害された」、尼崎の親子ら2組が救済申し立て
障害のある子どもの「就学相談」で、本人や保護者の意見が尊重されず、傷つけられたとして、兵庫県尼崎市の親子らが9月17日、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。 公立小・中学校の通常学級で学ぶことを希望したものの、地域の公立学校と教育委員会から受け入れられず、さらに相談の際に保護者と子どもの心を傷つけるような言葉を受けて、意思を否定される人権侵害があったとしている。 親子らに協力した柳原由以弁護士によると、就学認定に関する人権救済の申立は、今回が初めてという。今回の申立を通じて、障害のあるなしにかかわらず、地域の学校に原則として通える体制を市や国に求めていくとしている。 弁護士らによると、現行の制度では、障害のある子どもの就学に関して市町村教育委員会は「本人・保護者の意見を最大限尊重」することが求められている。しかし、実際はそのような仕組みが実現されず、子どもが他の子と共に学ぶ「インクルーシブ教育を受ける権利」も否定され、進路に影響が生じていると主張している。 インクルーシブ教育の研究者である関西学院大の濱元紳彦准教授は「尼崎市だけの問題ではない」と指摘する。 全国で特別支援学校や特別支援学級に在籍する児童・生徒が増加し続けている状況があるとして、障害のある子の就学決定において同様の経験をした全国の保護者からの意見も添えられた。 ●学校関係者に恐怖を感じた子どもが失禁 人権救済を申し立てたのは、尼崎市の公立小・中学校に就学を希望した2組の障害のある子とその保護者だ。 尼崎市の山本季枝さん(45)と宗一郎さん(44)は、高校3年生と中学2年生の知的障害と自閉症のある兄弟を育てている。長男の小学校就学時に「配慮してほしい点」を伝えようとしたが「過保護である」と指摘されるなどしたという。 もう1人の申立人である北川みゆきさんは、尼崎市に住んでいた10年ほど前に、小学校で就学相談を進められ、一方的に入学先を判定されたという。その場では「支援学級に入らないと支援しませんよ」「税金を使って支援学級を作ってあげるんですよ」などと指摘されたそうだ。 その場の空気に耐えられず、落ち着かない様子の子どもに、学校関係者から「そんな子はこの学校に入れてやらんぞ」と指を差されたと、北川さんは涙ながらに振り返る。 「帰り道、子どもは怖さのあまり失禁して、帰ってからも『入れてやらんぞ』と叫びながら、買ったばかりの新しいランドセルをカッターナイフで自ら傷つけました。逃げるように我が家は県外転居を選択し、私も転職を余儀なくされました。 近年インクルーシブ教育や合理的配慮という言葉は広まりつつあるものの、いまなお就学問題における選択の強制をはじめ、学校教育の中で配慮ではなく排除されている子どもが大勢いる現状があります」 そして「私たちだけの問題でなく、同じような思いを抱えた親御さんの思いも込めた申立だと知ってほしい」だと強調した。 ●地域における就学拒否は「差別だ」 今回の申立では、障害を理由として、地域の公立学校や通常学級での就学を拒否されることは差別にあたるとしている。 就学相談において、子どもの就学先が特別支援学校しかないような見通しが提示されていたことも問題視している。 また、尼崎市が1982年に小中学校に出した障害のある子どもの地域の学校における「完全参加」をめざし、「共に学ぶ」ことに重きをおいた通知も無視していると指摘する。 そのような背景を踏まえて、尼崎市に対しては、障害の医学モデルに基づく就学先決定の仕組みの見直し、子どもの声の尊重、教育支援委員会のメンバーに障害当事者を入れることなどを求めている。 また、国と文部科学省には、全国の学校などの教職員らにインクルーシブ教育や障害の人権モデルに関する研修の実施などを求めていく。 ●「失敗する機会さえ奪われてきた」 子どもが多くの時間、「分離教育」で学ぶことになったことに、季枝さんは、就学決定において、親子の希望が受け入れられなかった結果、「(子どもから)人生を開拓していくということや失敗する機会さえ奪われてきた」と振り返る。 「コケないように、転ばないようにサポートしてくれることがありがたいと思っていたが、子どもが大きくなって振り返ると、そういう機会こそ与えてやるべきじゃなかったかと。それで後悔しています。 支援学校や支援学級に行かれている方を否定はしませんが、選択肢の前提として、『地域の学校が受け入れるんだよ。ウェルカムなんだよ』という社会にしてほしいと思います」
弁護士ドットコムニュース編集部