【第81回ベネチア国際映画祭】黒沢清監督「Cloud クラウド」アカデミー賞国際長編映画賞日本代表に ノミネート決まれば「菅田将暉という役者の素晴らしさがアメリカで知られる」と期待
現在開催中の第81回ベネチア国際映画祭で、アウト・オブ・コンペティションに選ばれた黒沢清監督の新作、「Cloud クラウド」が、ワールド・プレミア上映を迎えた。黒沢監督は、今年2月のベルリン国際映画祭で披露された「Chime」に続く、海外映画祭となった。またベネチアは今回が5度目の参加となり、前回の「劇場版 スパイの妻」(2020)では銀獅子監督賞を受賞している。 【フォトギャラリー】ベネチアで熱心なファンからサインをせがまれる黒沢清監督 レッドカーペットに黒沢監督が登場すると歓声が上がり、熱心なファンからサインをせがまれる光景も見られた。深夜から始まるミッドナイト上映にも拘らず、会場は比較的若い観客で溢れ、終映時はスタンディング・オベーションに沸いた。 菅田将暉を主演に迎えた本作は、ネットの転売屋を営む主人公、吉井が、その非情なやり口ゆえに人々の恨みを買い、やがてそれが集団的な憎悪となって彼に襲いかかるさまを描いたサスペンス・スリラー。一見、狂気を抱える人々ばかりに見えながら、現代社会に起こり得るリアリティを感じさせるところが怖い。吉井の周囲で不穏なことが起こり始める描写の、細部に至る冴えた演出は、黒沢ホラーの真骨頂。菅田の巧さと相まって震撼とさせられる。 公式上映に先立ち行われた記者会見で、本作がアカデミー賞国際長編映画賞の日本映画を代表する出品作に選ばれたことが報じられると、黒沢監督は、「間違わないでくださいね。日本映画の代表に選ばれたというだけで、まだアカデミー賞(のノミネート)に選ばれたわけではありませんから(笑)」と照れながら答え、「でも大きな楽しみは、もしも選ばれたら菅田将暉という素晴らしい役者さんのことがアメリカで知られるだろうということです」と語った。 「回路」(2001)を作った頃からインターネットはどのように変化したと思うか、という質問には、「現代ではインターネットはごく当たり前のものになっている。ただ人間の心がどうなっているかに思いをめぐらせると、どんどん未来への展望が見えなくなり、未来にいいことはひとつもないのではないか、と思うようになっている。そうした人間の心のなかにある歪みがインターネットで増幅する。人間の心が問題であり、ネットはそれを象徴している」とコメント。さらに転売について「犯罪すれすれであり、そうしないと儲からない。資本主義の冷たい側面であり、現代を象徴する問題だと思う」と語った。 一方、不透明な主人公像について尋ねられると、「主人公は曖昧な人、つまり普通の人にしたかった。いい人でもあり悪い人でもある、普通の人が持っている濁った感じ。曖昧というのは魅力に欠けるかもしれないが、菅田さんの高度な演技力があれば、観客にこの先彼はどうしたいのか、という関心を持ってもらえると思った」と、胸の内を明かした。 公式上映の反応を見る限り、その読みは的中したと言えるだろう。(佐藤久理子)