村田諒太の王座奪還劇が関西最高視聴率20%超えでプロ野球球宴に勝った意義とは?
今やテレビの視聴率がイコール、そのスポーツの人気指数を示す時代ではない。DAZNの放映料が民放の放映料を遥かに超える時代である。これまでボクシング放映に積極的だったテレビ東京や日本テレビもボクシングと距離を置くようになった(村田の試合では2日前から日本テレビ関係者が積極的に姿を見せていたが)。海外を主戦場にしてチャンスを切り開こうとしている次世代のボクサーも増えてきた。そういう時代だからこそ、なおさら「内容」が求められる。世界のベルトだけではなく、人々を感動させる付加価値がいる。今回、村田は、それらの条件をすべて満たしたのである。 ただ若い人が見なくなっているとはいえ、やはりボクシング界においてテレビが占める役割は大きい。テレビ中継の「アリ」「ナシ」は、ボクシングの盛り上がりに大きな影響力を持つ。金のかかる世界戦興行を成り立たせるための不可欠要素である。単純に放映料だけでなくテレビがつけば、チケット販売、スポンサー営業のプラスにもなり、底辺拡大という意味での普及にも効果がある。 選択肢が増えている多様な価値観の時代にプロ野球という“王道コンテンツ”に視聴率でボクシングが勝った意義は大きいだろう。 現在、視聴率を稼げるボクサーは村田とWBA、IBF世界バンタム級王者、井上尚弥(26、大橋)、4階級王者でWBO世界スーパーフライ級王者の井岡一翔(30、reason大貴)の3人しかいないが、逆に言えば、彼らがいる間は、テレビ局もボクシングを見離さない。ダブル、トリプルのタイトルマッチ興行が当たり前になっている時代だから、この3人にのっかかる形で他のボクサーにもチャンスが生まれる。1戦ごとに逞しさを増している拳四朗にしてもテレビと帝拳のバックアップがなければ、世界戦のチャンスをつかむことはできなかった。 村田はリング上で「帝拳ジムにずっと世界チャンピオンがいなければならないし、僕がバトンを渡せる選手が出るまで頑張りたいです」と言った。村田が世界王者でいる限りバトンを渡す選手のチャンスも広がる。だから「ボクシング界は救われた」のである。 井上尚弥が強烈なインパクトを残しているが、スターボクサーは何人もいて相乗効果を生み出してくれた方がいいに決まっている。 もちろん今後の村田への期待もある。 ミドル級のWBAスーパー、WBC(フランチャイズ王者)、IBFの統一王者で頂点に立つサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)、元統一王者で、アルバレスとの3度目の戦いを求めているゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)らとの世界的規模でのメガファイトを村田が実現させていけば、一般ファンをも巻き込んで、ボクシング界が、今直面している“壁”をぶち破ることにつながるかもしれない。人々は大谷翔平、大坂なおみ、錦織圭、八村塁ら「本物の世界のトップで戦うアスリート」に興味を抱く。再びボクシング全盛時代を呼び戻すための命運を村田が握っているのだ。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)