横浜高、ドクターK松井攻略に秘策
牽制球の癖を盗んだ!
【攻略法その2】ひざの高さのボールは捨てる 二者択一になるとは言っても、そう簡単には松井のスライダーをバットでとらえることはできない。特に低目からボールゾーンに落ちるスライダーの切れ味と落差は、対戦したバッターをして「視界から消える」と言わしめるほどだ。松井の名前を全国にとどろかせた、すでにプロのレベルにある魔球だ。 小倉コーチは左手首を捻る、つまりスライダーの投げ方を真似しながら「何もこれを打てとは言わないわけですよ」と低目のスライダーはお手上げだと笑う。もちろん、無策のはずがない。 「ひざの高さにボールが来たら、打たなきゃいい。もっと言えば、途中で(低目への)スライダーだと分かったら、見送ればいいわけですよ」 低目のスライダーか否かを見極めるために、すでに春の県大会直後から入念な対策を積んできている。バッティングマシンの球速を約140kmに設定した上で、マウンドから3.5mも前にずらす。バッターは体感速度150km超のストレートを打ち返す一方で、時折混ぜられるひざ元から鋭く落ちるスライダーを見送る高度かつ瞬時の判断力を養ってきた。 主砲の高濱祐仁(2年)は春の県大会で、ワンバウンドして自らの足に当たったスライダーで空振り三振を喫する屈辱を味わった。「打倒・松井」だけに照準を絞った特訓の積み重ねに今では大きな手応えを感じ、リベンジを心待ちにしている。 「(5回戦の)松井さんは、奪三振の数も多くなかった。自分のバッティングをすれば打てると思う」 【攻略法その3】けん制時の癖を見抜いて足でかき乱す 小倉コーチは苦笑いしながら、2年生主体の今年のチームを「貨物列車ばかり」と表現する。 「足が遅いと普通なら各駅停車って言うんだけど、今年はさらに遅いからね。だから貨物列車(笑)。それでも、走らせなきゃダメ。いかに走れるかが最大の攻略法。松井君はクイックモーションで投げられない。そこにちょっとした隙がある。盗塁は足の速い遅いじゃなくてスタートがすべて。スタートがしっかり切れるかどうか、なんです」 松井自身もクイックモーションができない欠点を自覚しているのか。ランナーが出た時にはけん制球を多用し、相洋戦と横浜商大戦では一度ずつ一塁ランナーを刺している。冬場から練習を積んできただけあって高いレベルにはあるが、小倉コーチの前ではすでに丸裸になっている。 「けん制する時はこうで、けん制せずにバッターに投げる時はこうという癖があるわけですよ。それを突けるか突けないか。オレには分かっても、実際にやるのは選手たちだからね」 企業秘密ということで詳細は明かしてくれなかったが、相手の癖を見抜く小倉コーチの存在は横浜隼人戦でも大きな武器になった。相手左腕の癖を突き、一回裏に二盗を決めた高濱が言う。 「セットポジションから右足を真っすぐ上げた時はけん制球で、軸足と交差させるように上げた時はバッターに投げると言われた。ズバリでした。いつも的確な情報を与えてくれるし、本当にすごいと思う」 左打者を多く並べることでウイニングショットのひとつであるチェンジアップを封印させ、低目のスライダーを見極めてストレートを狙う。出塁すればけん制球の癖を突き、左腕相手では難しいとされる盗塁やエンドランなどを駆使。徹底して足で揺さぶれば必然的に球数も増え、スタミナを消耗する。 松井及び桐光学園が嫌がることを積み重ねた先に勝機を見出す作戦となるが、ここにきて松井自身にも異変が生じていると、小倉コーチは指摘する。 「松井君のスライダー自体が、春の時に比べてかなり悪い。曲がりが小さいし、キレも落差もなくなっている。その意味ではけっこう隙がある。原因は今年のこの暑さ。力投型だから疲れもたまるんでしょう。その点、ウチのピッチャーは、オレが管理して鍛えているから、スタミナに関しては上です」 気象庁の天気予報によれば、24日の横浜地方は「曇り一時雨」で最高気温は28度となっている。 「もっともっと暑くなって、35度を超えるくらいの方がウチにとってはいいんだけどね」 豪快に笑い飛ばした小倉コーチは、大きな注目を集める一戦をこう位置づけた。 「まあ、今年は力の差がありすぎる。向こうの方が全然、上ですよ」 もちろん本音ではない。一発勝負は何が起こるか分からないからだ。自信を秘めているゆえ、あえて謙遜しているようにも聞こえる。春夏合わせて5度の全国制覇を誇る名門・横浜が、プライドをかけて「打倒・松井」に全身全霊で挑む大一番。プレーボールは午後1時半の予定だ。 (文責・藤江直人/論スポ)