松尾貴史が選ぶ今月の映画『ビートルシューズ ビートルジュース』
死後の世界で“人間怖がらせ屋”を営んでいる推定年齢600歳のお騒がせ者・ビートルジュース(マイケル・キートン)の願いは「人間と結婚」し、人間界へ移り住むこと。あるハロウィンの日、ビートルジュースが想いを寄せる人間のリディア(ウィノナ・ライダー)の娘アストリッド(ジェナ・オルテガ)が死後の世界に囚われてしまい、リディアは結婚を条件にアストリッドの救出をビートルジュースに依頼する……。ティム・バートン監督の最新作『ビートルジュース ビートルジュース』の見どころを松尾貴史が語る。
期待を裏切らない大好きな作品の続編
36年前に見て、何という狂気を自由自在に表現する世界があるのかと驚嘆して大好きになった『ビートルジュース』(1988年)の続編がやって来ました。試写の案内をいただいた時に、あまりのうれしさに小躍りしたのですが、そんな雰囲気を1ミリも感じさせないような面持ちで試写室に向かったのでした。 にもかかわらず、受付の方から「そんなに気合を入れていただいてありがとうございます」と言われて動転した私でした。本当に無意識で、その日数年ぶりに着用したTシャツが、同じくティム・バートン監督の『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のBONE DADDYのイラストがプリントされたものなのでした。全く意識しておらず、無意識のうちに着てしまったようです。恥ずかしいことこの上ありません。 確か、前作の日本公開時の日本語字幕監修は所ジョージさんだったと記憶しています。悪魔?のビートルジュースがバナナボートを歌い踊る時に、片手を上に上げてひらひらさせ、もう一方の手を腹に当てる振り付けのところで、字幕に「胃と手、胃と手、胃と手……」とあったのを思い出します。日本語吹き替え版では、ビートルジュースの声を何と西川のりお師匠が当てていたことも衝撃でした。 それはさておき、今回ご紹介せざるを得ない『ビートルジュース ビートルジュース』は、私ごときがここで何かを申し上げることも烏滸(おこ)がましいほどの名作中の迷作です。いやあ、面白い、エキサイティング、相変わらずの、というよりも輪をかけたハイテンションで、私は最初から最後まで口が開きっ放しでした。 これほどこんがらがった馬鹿馬鹿しさを、よくもこれほどスタイリッシュにまとめ上げたものです。前には登場しなかったと思いますが、ビートルジュースの前妻ドロレスを、かのモニカ・ベルッチが演じていることも興奮材料です。「かの」というのは、以前は好きな女優を問われて、ずっとこの人の名をあげていた私の個人的な事情なのですが、今はすっかり熟されて妖艶な迫力を得ておられるのです。 聞くところによると、ベルッチは今、監督のティム・バートンと交際しているそうで、なかなかに無駄のない布陣であるとも思われますが、当初のキャスティングには含まれなかった役柄だそうです。ところが、そもそもこの存在が軸として作られたのではないかと錯覚するほどの重要なポジションを占めているのです。まるでゴシックホラーの集大成のような凝縮したキャラクターで、「101」のクルエラ・デ・ビルを越えたと言っても過言ではありません。 西洋の死生観や死後の世界のイメージが、意外と日本人の持つそれと、印象こそ違えど構造が似通っているところに、物語への入り込みやすさがあろうと思います。 とにかく、映画館に笑いに行ってください。 Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito