標本にしたナガブナを手にする伊藤さん。研究を通じて生物多様性の保全を訴えている（大津市瀬田大江町・龍谷大）

　淡水魚を中心に「生物地理学」を研究している龍谷大学生物多様性科学研究センターの客員研究員、伊藤玄さん（35）。その生き物がいつ、どのようにその場所に分布するようになったのかを探る学問だ。 　岐阜県多治見市出身。幼少期から生き物好きで、特に身近だった淡水魚に心引かれた。 　「長期休みになると、自然豊かで目の前にきれいな川がある祖父母の家に行って川遊びしていた。自分で取った魚を飼育したりもしていた」。泳いでいたのはドジョウやカワムツ、アマゴ-。何という種類の魚なのか、どんな場所にすんでいるのか、興味は尽きなかった。 　大学では魚類を研究できる環境がなかったため、植物をテーマにしていた。大学院の博士課程になって、生物地理学の手法で淡水魚などの研究を本格的にスタートさせた。 　研究では、採取した魚を遺伝的に解析し、生物集団の交流状況や分布を調べる。同じ種類の生き物でも、各地域ごとでその環境に適した独自の遺伝子を持っている。「地域によって遺伝子が違うということは、魚たちが何百万年、何千万年とそれぞれの場所で命をつないできたという証だ」と語る。 　放流など人の手によって、もともと住んでいた場所から別の場所に放されることで起きる「遺伝的かく乱」に注目している。日本各地で起きており、強い危機感を抱く。外部から来た生物が在来の同種生物と交雑することで、異なる遺伝子に変わってしまうからだ。生物が遺伝子の変化によってその場所に住みづらくなる恐れもある。 　「魚がいなくなったから他から持ってきて放流すればいいよね、という考えでは培ってきた生き物の歴史を消してしまう。研究を積み重ねて、生物多様性の保全につなげたい」。滋賀県草津市在住。