吉野弘幸さん 東京ドームのリングに一番最初に上がったボクサー「ドームが人生を変えてくれた」88年タイソン戦前座で日本王座奪取
◆元日本・東洋太平洋ウエルター級王者&日本スーパーウエルター級王者 吉野弘幸さん(56) 持参した古びた段ボール箱から、吉野さんは破れないようにゆっくりとポスターを取り出した。上半身裸のマイク・タイソンがポーズを取る1988年3月21日、東京ドームでの防衛戦のポスター。記念すべき東京ドームでのボクシング初興行は、タイソンがトニー・タッブスを相手にWBA、WBC、IBF世界ヘビー級統一王座の防衛戦を行い、2回TKO勝ちした。その興行の第1試合に登場したのが吉野さんだった。 「東京ドームのリングに選手として一番初めに上がったのは誰だか知ってますか? 自分なんですよ」。圧倒的不利と言われた中、日本ウエルター級王者の坂本孝雄に挑戦した。入場は挑戦者からで、一番初めにリングインしたのが吉野さんだ。そして下馬評を覆す4回KO勝ち。そこから14連続防衛を達成するなど、ボクサーとして飛躍のチャンスを得たのがドームだ。「あの試合からすべてが好転していったんです。まさに人生を変えたリングです」と感慨深い表情で話した。 それまで試合をしてきた後楽園ホールとは当然ながら何もかもが異なった。「控室からリングまでが、とにかく遠かった。あまりに広いんで、逆に後楽園ホールより緊張しませんでした。リングから目にしたお客さんは米粒程度。声もさほど気になりません。後楽園は何もかもダイレクトに伝わってきますので、そのへんは大きく違いました」と当時の記憶をたどった。 チャンピオンベルトを手に控室に戻る途中で、関係者として来場していた5階級制覇のシュガー・レイ・レナード(米国)から「グッド ファイト」と声をかけられ、あまりの感激に全身鳥肌が立ったという。そして、誰もが当時憧れたタイソンとは通路ですれ違った。「同じ時代に同じリングで同じ景色を見れた。本当に、本当に幸せでした」。今にも壊れそうな段ボールから取り出したポスター、そしてパンフレット。36年たった今でも、唯一無二の宝物として大事にしている。(近藤 英一) ◆吉野 弘幸(よしの・ひろゆき)1967年8月13日、東京・葛飾区生まれ。56歳。85年2月に17歳でプロデビュー。88年3月に日本ウエルター級王座を獲得すると14連続防衛に成功。その後、東洋太平洋ウエルター級、日本スーパーウエルター級王座も獲得。戦績は36勝(26KO)14敗1分け。身長177センチの右ボクサーファイター。2005年に地元の葛飾・青戸に「エイチズスタイルボクシンジム」をオープン。
報知新聞社