勇気を振り絞ってドアを開けるとそこは……『観る』『飲む』『語る』ワクワクする小さな映画館を開いた若者の“映画愛”
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
映画『キューポラのある街』の舞台、埼玉県川口市。鋳物工場は郊外に移り、今はタワーマンションが建ち並んでいます。
川口駅東口を降りると、賑やかな商業エリアが広がり、昭和の雰囲気が漂う、昔ながらの商店街が続いています。
そんな駅前の裏通りに、小さな映画館があります。しかし、ほとんどの人は映画館だとは気付かず、通り過ぎてしまいます。映画館だと分かっても、勇気がないと、なかなか入れません。 というのも、雑居ビルの裏手の細い階段が入口で、2階に上がると、殺風景な廊下に、ポツンと黒いドアがあります。
ドアノブに「OPEN」のプレートが下がっているだけなので、誰もが二の足を踏んでしまいます。 「きょうは、やめとこ」と帰ってしまう人もいるとか……
好奇心と勇気を振り絞って、ドアを開けると、思わず、「わぁ!」と声が漏れてしまうほど、カラフルで素敵な映画館が、そこにありました。 映画館の名前は、『第8電影』。
奥に入るとカウンターのバーがあって、その横にはソファが置かれて、くつろげる場所になっています。
映画が上映されるスペースは定員20人、試写室のような雰囲気です。 支配人の岡本滉太さん、25歳。スラリと背が高く、ロン毛で、スタイリッシュな青年です。 南アルプスの山々が見渡せる、長野県阿智村の出身で、子どもの頃から漫画やアニメが大好きで、夢は漫画家でした。高校生になると、隣の飯田市にある高校へ、2時間かけてバス通学。3年間、バスの中で1000本のアニメを見まく ったそうです。 高3のとき、担任から「お前、もっとやればできるぞ」と励まされて受験勉強に打ち込み、上智大学文学部哲学科に、見事合格! ところが大学に入ると、同級生と話が合わないことに気づきます。 「みんな、哲学科を目指すだけあって読書量がすごく、知識の豊富さに歴然とした差を感じましたね。漫画やアニメの知識だけでは太刀打ちできないんだなぁと……」