命を奪われたイスラエル人フットボーラー【サイモン・クーパーが綴る戦時下のフットボール|前編】
ガザに娯楽はフットボールしかない
もっとも、イスラエル国内リーグのテレビ中継をイスラエル人よりも見てきたのはパレスチナ人である。 イスラエルのクラブで多くのアラブ人がプレーしているからだろう。彼らは「イスラエル系アラブ人」とされ、その人生のどこかでイスラエルの市民権を取得したものの、ルーツを辿れば結局のところはパレスチナ人である。イスラエル人とパレスチナ人の関係性は、外から見るよりも随分と複雑で難解だ。 ガザ地区を見てみよう。イスラエル南部、地中海に面したこの狭いエリアには約200万人のパレスチナ人がひしめいている。もちろん、7日のフェス襲撃に端を発した今回の戦争が始まる前の統計である。 その地の人々は特にフットボールと密接に関わっている。同地を支配するイスラム過激派組織のハマスはアルコールとセックスどころか、男女の密接な交流すら禁じていて、娯楽という娯楽はフットボールしかないからだ。ガザは南の国境をエジプトと接していて、ガザ地区の人々がその隣国の名門、アル・アハリやザマレクのファンと路上で衝突する事件も起きている。 【中編】に続く 文●サイモン・クーパー 翻訳●豊福 晋 ※『ワールドサッカーダイジェスト』2023年11月16日号の記事を加筆・修正