山田杏奈が来るところまで来た! 実写版『ゴールデンカムイ』アシリパ役に相応しい実力
ようやく、山田杏奈が来るところまで来た! 実写版『ゴールデンカムイ』のアシリパ役に彼女が決まったとき、そう思った。物語のカギを握るアイヌの少女を演じる者として、彼女ほど相応しい俳優はそういないだろう。それに、ヒロインとしてこのビッグタイトルを背負えるだけの力を、彼女は十分に持っていると感じていたからだ。 【写真】『ゴールデンカムイ』山﨑賢人演じる「不死身の杉元」こと杉元佐一 山田が演じるアシリパとは、厳しい北の大地を生き抜く知恵と狩猟技術を持つアイヌの少女。ある目的のためにアイヌの莫大な埋蔵金を探す主人公・杉元佐一(山﨑賢人)がヒグマに襲われていたところを助け、それから行動をともにすることになる。かつて埋蔵金を強奪して隠した男に、彼女は父親を殺されているのだ。小柄がゆえに非常に身軽で、巧みに弓矢を操ってみせ、大男たちとも堂々と渡り合うことのできる人物である。 このアシリパ役は、誰にでも演じられるものではない。いくらマンガの中のキャラクターとはいえ、気軽に演じられるものではないはずだ。アイヌ民族は北海道を主な居住地とする先住民族で、アイヌ特有の文化を築き上げてきた。自然を重んじる価値観や食文化は『ゴールデンカムイ』の劇中にも描かれているし、アイヌ固有の言語だってある。そういったものを、アシリパを演じる者は背負わなければならないというわけだ。挑戦するにはさまざまなハードルがあるだろう。 しかし、山田がアシリパ役を務めることに関して私は冒頭で、“アイヌの少女を演じる者として、彼女ほど相応しい俳優はそういない”と記した。彼女はこれまでも俳優として、多くのものを背負ってきたのだ。 たとえば、2023年に公開された『山女』での彼女の役どころがまさにそうだ。同作の舞台は、大飢饉に襲われた18世紀末の東北の寒村。山田が演じた主人公・凛は、先代の罪を負った家の娘であり、村の者たちから蔑まれながら生きている人物だった。やがて彼女は父の犯した罪を被り、入ることを禁じられていた山奥へ。そこで凛は本来の自分らしさや人間らしさを知ることになる。 観ていて息の詰まる作品であり、今日にも通じる多くのテーマ性を内包した作品である。これを見事に背負ってみせたところに、山田の俳優としての器の大きさやポテンシャルの底知れなさを感じたのだ。 さらに振り返ってみれば、『ミスミソウ』(2018年)や『ひらいて』(2021年)、『彼女が好きなものは』(2021年)など、数々の作品を主役級のポジションで山田は率いてきた。いずれも切実なテーマ性を持ち、鑑賞者の価値観の変革を促す作品である。こうしたキャリアを経てきた彼女ならば、難役だといえるアシリパを演じきり、『ゴールデンカムイ』というビッグタイトルを主演の山﨑たちと背負えるはずだと思っていたのである。 実際、彼女のアシリパとしてのポジショニングは的確だ。主人公・杉元と交流をしていくうちに柔らかくなっていく心のありようは、微細な語調の変化で表現し、その表情も初登場時と終盤では大きく違う。柔和なものへとなっている。いっぽう、敵対する者には鋭い視線を向けて屹然とした態度で挑み、コメディリリーフ的な役どころの者との掛け合いも軽快だ。原作で親しんでいたあのアシリパが、目の前にいる感覚になる。山田が立ち上げたチャーミングなアシリパ像は、人々に広く愛されていくに違いない。 アシリパは自らのことを「新しいアイヌの女」だという。おそらくこのビッグタイトルはシリーズ化していくはずだから、俳優・山田杏奈はこれまで以上に多くの鑑賞者たちに対して、価値観の変革を促す存在となっていくことになる。そう、彼女は来るところまで来たのだ。 ※アシリパの「リ」は小文字が正式表記。
折田侑駿