「先っぽ、どうします?」乳がんで「乳房」を手放した女性が直面した、それぞれの事情
それまで、胸に痛みや違和感はまったくなかった。すぐに病院に行くも、インドネシアでの処置は難しいと判断され、利香子さんは一時帰国を余儀なくされた。そして、病気の発覚と入れ替わるように、愛猫の姿が消えた。 「あの子は、うちのオフィスで生まれてずっと私が育ててきたんですけど……。大事なことを伝えて、ふっと姿を消してしまいました。必死に探し回りましたが、結局見つからなくて。でもあの粗相は、私へのメッセージだったと思うんです。無理矢理にでも私をパソコンから引き離して、“胸に触れてみて”と伝えてくれたんじゃないかと。そうでなければ、乳がんに気づくのがもっと遅れて、命にかかわっていたかもしれません」
愛猫の失踪に胸を痛めながら、利香子さんは闘病を始めた。 「私は最初ステージ3aと言われていたんですが、いざ手術してみたらがん細胞は脇のリンパ節を越えてリンパ腺まで広がっていて。それが一般的に言うステージ4なのか、ステージ3bなのか、はっきりとはお医者様に言われませんでした。 “ステージ”って人によって状況が違うので、同じ“4”でも大変な人もいれば、そうでもない人もいるんです。だから、ステージそのものはそんなに気にしなくていいんだと思いました」
淡々と語る利香子さんには、病への怯えが少しも垣間見られなかった。 見えたのは、どうにか脅かしてやろうと手ぐすねを引くがんを、真顔であしらってやった美しいふてぶてしさ。それには、バリで出会った友人の言葉が大きく影響しているという。 「ある人に、“目の前で起きてることって、自分が悩んでも悩まなくても状況が一緒だったら、悩んでいる意味ないじゃない?”って言われたんです。その言葉が、すごく腑に落ちて。だから、乳がんだとわかったときも、落ち込んでも意味がないから、できることをしようと気持ちを切り替えられたんです。なるべく体調が悪くならないように温熱療法を採り入れたり、バリの人に親しまれているサプリを飲んだり。私の場合は、それが全部よい方向に作用したみたいです。