ホームシックのラマが元気になった……遊牧民をリラックスさせる家畜の匂い
みんなと一緒にお茶を飲んでから、ゲルに寝泊まりさせている仔牛を、母牛のいるレンガ造りの囲いに連れて行き、ミルクを飲ませた。この仔牛は生まれて一週間も経たないので、夜はゲルの中に入れ、家族と一緒に寝させている。 仔牛はゲルの中で勝手に排泄もするので、一般的には、汚い、臭いという感覚を間違いなくもたれるだろう。だが、いつでも家畜と共に生きている遊牧民は、汚いとは心から思わない。自分のことよりもいつも家畜を大切にしている。自分たちが食事する前に餌を与えて、家畜の寝床をきれいにしてから、夕飯をとるのが日課だ。 有名なモンゴルの小説の中で、チベットに留学したラマがホームシックになった際、アルガル(乾燥した牛糞)の匂いを嗅いだ瞬間、リラックスして元気になったことが書かれていたが、私も同感だ。 私が到着した翌日には、仔牛がもう1頭生まれたので、ゲルの中には2頭入れることになった。羊の出産時期にはもっと多くの仔羊を入れるので、ゲルの中は大変なことになる。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第9回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。