ライシ大統領死去でイラン反米保守強硬派に試練 ハメネイ師後継の最高指導者選びに支障も
20日に確認された、ヘリコプター事故によるイランの反米保守強硬派ライシ大統領の死去で、最高指導者ハメネイ師率いる保守強硬派は国内外で試練に直面するとみられる。自由や民主化を求める国民は欧米と対立する保守強硬派に反発しており、ライシ師の後継を決める大統領選でも風当たりが強まりそうだ。ライシ師はハメネイ師の有力後継候補の一人だったため、次期最高指導者選びに支障が出るとの観測もある。 ■50日以内に大統領選 ロイター通信によると、ライシ師の死去が正式に確定すれば、50日以内に大統領選が行われる。職務はモフベル第1副大統領が代行する。 体制の動揺を突いて国内外の反体制派や武装勢力が勢いづき、地域情勢が不安定化する可能性は否定できない。ただ、イランでは大統領は行政の長に過ぎず、国政全般の決定権は最高指導者が握っている。ハメネイ師は「国政に支障は出ない」と強調した。 イランの宿敵で4月、領土を互いに攻撃して緊張が高まったイスラエルでも、冷静に受け止められているようだ。イスラエル紙エルサレム・ポスト(電子版)は、「(大統領が)不在になれば後任を決める手続きが取られるだけ」という元軍幹部の発言を紹介した。 ■市民の抗議デモも ただ、イラン国内では保守強硬派の将来に暗雲が漂う。ライシ師が勝利した2021年大統領選の投票率は48・8%と1979年のイスラム革命以来、最低を記録した。最高指導者の影響下にある「護憲評議会」が多数の改革・穏健派の立候補を認めず、有権者が選挙への関心を失ったことが一因だった。 ライシ師の後継を決める選挙でも評議会が保守陣営に肩入れするようなら、革命体制は信任をさらに失うばかりか、市民が抗議デモを行って治安部隊と衝突する事態も想定される。22年には女性が頭髪を覆うスカーフの着用を拒否するデモが起き、全土に拡大した。 ■次期最高指導者は世襲? ライシ師の不在は、今年推定85歳のハメネイ師の後継問題にも影を落とす。英誌エコノミスト(電子版)は、次期最高指導者の有力候補はライシ師を除けばハメネイ師の息子のモジタバ師しかいないとする一方、モジタバ師が跡を継げば革命体制が批判してきた世襲という矛盾が生じると報じた。(中東支局 佐藤貴生)