多くの日本人は「確率」という概念を正しく理解できない…日本社会にひそむ「教育水準の格差」の現実
---------- 「日本人の識字率は極めて高い」「経済格差はあっても、文化的には平等」といった言説は、ネットはもちろん書籍でもよく見られるものだ。こうした主張の根拠とされがちなのは1948年に16,820名を対象に実施された「日本人の読み書き能力調査」で、「完全文盲が1.7%」という結果が出ている。だが近年、この結果を再検証した研究によって、当時の日本人の識字率はもっと低い可能性があることがわかってきた。 ---------- 【一覧】意外すぎる結果に…「タモリが司会」の好きな番組ランキングはこちら 『「日本人の識字率は極めて高かった」という「神話」はなぜ生まれたのか…1948年、GHQが命じた「大規模調査」の結果を再検証』より続く…
知的格差から逃れられない日本社会
小熊英二は日本人の読み書き能力についてのこの調査結果を「都市と農村、上層と下層の知的階層格差」の表れだとしている(※1)が、たしかに成績には世代差以外にも、地域や学歴による差があった(※2)。 要するに、明治にも、昭和にも、そして2010年代にも日本社会には読み書き能力の格差があり、したがっておそらく、今もあるということだ。新井紀子は読解力の格差をはじめて見つけたのではなく、戦後長らく忘れられていた知的格差を、ようやく再発見したというべきかもしれない。 ここまで見てきたのは主に読み書きや言葉を扱う能力の格差だが、読み書き能力は広く知的な力の基盤だし、そもそも日本社会では教育水準にも格差があるため、日本社会での知的能力の格差が読解力だけに留まると考えることは難しい。たとえば最終学歴が高校の人間と、大学院で博士号を取った人間の知的パフォーマンスになにも差が出なかったら、むしろおかしい。 東日本大震災後の福島県を中心に、原発事故の影響について130回以上の講演をした被ばく医療の専門家である神谷研二は、住民との知的なコミュニケーションの難しさを感じたと振り返っている。 「(放射線の発がんリスクについて伝えるためには)確率の話になるわけですが、住民の側からすると理解が難しい。一般に危険か危険でないか、日常的には『あるかないか』で考えるわけですから、確率的に考えるということが今までの習慣の中にないんですよね」