【短期連載】a flood of circleのギタリスト、アオキテツが語るバンドの〈今〉
満員御礼となった日比谷野外大音楽堂でのライヴで、デビュー15周年イヤーを締めくくったa flood of circle。全32曲、3時間超えとなったこの日のライヴで、これまでの歩みを刻み込んだ彼らの〈今〉を捉えるべくスタートした短期集中連載。第2弾は、アオキテツのインタビューをお届けします。なかなか定まらなかったこのバンドのギタリストの座について6年。そのギタープレイ同様にa flood of circleというバンドへの熱い思いが滲む、正直な言葉をここに。
15年くらいやってきて負けぐせがついちゃってる気がする
ーーまず、あの灼熱の野音ライヴの感想を。 「言うほどでもなかったっすよ。俺、暑さに強いタイプなので(笑)」 ーー30曲以上やるのは大変じゃなかったですか? 「全然。下手な演出とか、その日だけのゲストを呼ぶぐらいなら、4人で曲いっぱいやるほうがいいと思ってたんで。でも、特別なセットも組まずに32曲やって、〈よっしゃパンチあんだろ!〉〈いいライヴできた!〉って満足してたら、BRAHMANが今度、72曲4時間のライヴやるっていうニュースが出て(笑)。あれは悔しかった。でも、いいライヴができた自負はあります」 ーー野音でライヴをやることについてはどう考えてましたか? 「とくにはないっスね。目標っていうか、到達点では絶対ないし。ライヴハウスツアーのファイナルのひとつ、みたいな感じでした。佐々木くんが最近、2年後に武道館絶対やるってMCで言うけど、それも同じ感覚」 ーーでは、バンドが今武道館を目指すことについて、テツ自身はどう思ってるの? 「いいんじゃないですか。ここらで一発、ガツガツせんといかんな、と思います。このバンドって、15年くらいやってきて、負けぐせがついちゃってる気がするんですよ。なんか湿気てるもん(笑)」 ーー湿気てる!(笑)。 「そういうウジウジしたところを、バンっと払拭せなアカンでしょ。いつも、〈ガムシャラにやりゃええやん〉って思ってるけど、なんか身体動かすより、頭で考えて言語化しちゃう感じがあるんですよね。そんなのいらんやん」 ーーまあメンバーが失踪したり、事務所がなくなったり、苦労してきましたからね。 「それもわかるけど、俺が入って6年ですよ? いろいろあったんやろうけど、佐々木くんも、もうそんな考えんでもええやん。思ったようにやりゃいいんですよ。野音はソールドしたから、〈やればできんじゃん!〉って気持ちがみんな持ててればいいですけどね。〈やってやったぞ!〉って」 ーー負けぐせを払拭してね。 「でも、そういう負けぐせのついた、いろんな人の気持ちをわかることができてるのが、佐々木くんやこのバンドのいいとこでもあるから。そういうバンドが野音をソールドさせて、武道館やるぞって言ってるのが、みんなの希望みたいになればいい」 ーー野音で新曲の「虫けらの詩」を披露しましたけど、アルバムの何曲かは、福島のキャンプ場でレコーディングしたんですよね。 「キャンプ場のコテージみたいなとこに機材持ち込んで。最初は、〈佐々木くん、また突拍子もないこと言うてるわ〉って思ったけど(笑)、でも面白いことができるかもなって思って。ほんと、何もないとこだったんですよ。超山奥のキャンプ場で、人里に降りるのに車で15分はかかる(笑)。コンビニなんてもっと遠い。音鳴らすこと以外、何もできない状況で。そういうのって初めてだったし、4人、せーので音を鳴らせたんで」 ーーなるほど。 「ああいう雰囲気、久々だったな。全部の曲がそうだったわけじゃないけど、佐々木くんも、4人で1から作ろうとしてたし。逃げ場がないから、みんな向き合うしかない。バンドってそれが普通なんですけど(笑)、これがいつもの都内のスタジオだったら、前の日に佐々木くんがデモ送ってきて、それを4人で合わせて。それを一回持ち帰って、各々が揉んで、またスタジオに入る。そうやってくうちにみんな考えすぎたり、気を遣ったりで、どんどん横に逸れるんですよ。でも今回は、頭で鳴った音をそこで出して、〈これカッコいいじゃん、OK!〉みたいな。シンプルにレコーディングができたから楽しかった。15年目のバンドやけど、まだそういうのを4人でできるんや、って」 ーーメンバーと音源にしか向き合う時間がないからそうなれた、と。 「そう。佐々木くんも細かいところまで聴いて、他のメンバーがどうしたいか把握できるし、カカさん(渡邊一丘/ドラム)も『こうしてみたんだけどどう?』ってみんなに問いかけることが多かった。それに反応して、俺らもいろんなアイディアが出たし」 ーー「虫けらの詩」はどう思いましたか? 「あれは最初のデモとそんなに変わってないかな。でもキャンプ場で楽器だけ録って、次の朝にもう1回聴いたら歌が入ってて。それがすげーよかったんですよ。レコーディングスタジオで録音するのもいいんですけど、今回はキャンプ場で録った、気持ちで叫んでるような佐々木くんのヴォーカルがすごくよかった」 ーーこのバンドでこういうギタリストになりたいとか、こういうギター弾きたいとか、そういう目標ってありますか? 「ギタリストとして名を馳せたいとか、そういう気持ちはないんですよ(笑)。カッコいいバンドマンになりたいだけかな。『ギターうめぇな!』って言われるより、『ギター、カッケーな!』って言われたい。いまだに家の鏡の前で練習してるし(笑)」 ーーははははは! 「でも野音やって、今回のアルバム作ってるなかで、めちゃ自信つきましたね。俺ら、やりゃできるんだから(笑)」 ーーなかなか歌詞ができなくて、野音のステージでそれを言っちゃうヴォーカリストはどう思いますか? 「女々しいかな(笑)。でも、カッコつけるでもなく、いい人ぶるでもなく、そういう人間なんやなって部分をようやく表に出せるようになったんじゃないですかね。そんな強い人でもなかったと思うんですよ。でもそういう人が振り絞って、心の底から叫ぶ歌のほうが、心に響くじゃないですか」 ーーそうだよね。 「佐々木くん、元来、めちゃめちゃいい子ちゃんではないんやろな(笑)。そう振る舞わないといけなかったところもあるんやろうけど、そこから少し、解放されつつあるんじゃないですか? そういうのをバンドで出せるようになったというか」 ーーそして来年6月のZepp DiverCity(TOKYO)を含む、長いツアーが発表されました。 「37本ね。何ならもうちょい追加して全県ツアーにしたら、と思ったけど(笑)、すっげー久々のとことかありますからね。奈良とか山形、いつ以来だろ?」 ーーどんなツアーになるでしょうね。 「まだアルバムできてないから(笑)。録りは全部終わったけど、佐々木くんの歌詞とヴォーカル入ってどうなるか……あ、1曲、俺が作った曲があるんで、それは楽しみにしといてほしいですね。佐々木くんと俺でヴォーカルとってるんで」 ーーそこにも今のバンドの空気の良さを感じます。 「でも今回、野音やって、レコーディングして、とくにカカさんとかそうやと思うんですけど、こびりついた負けぐせをどうにかしたいんですよ、みんな。やり方はそれぞれ違うけど、どうにか打破したいと思ってたはず。キャンプ場でレコーディングしたのもそういうことやろうし。そういう気持ちにみんななれてるから、今、いい感じっすよ」
金光裕史(音楽と人)