米農村部での銃撃事件、鹿狩り解禁とともに増加
「剣を取るものは剣によって滅ぶ」とは聖書の『マタイによる福音書』に由来する古いことわざだが、この短い一節は、人間と銃や動物、とりわけ野生動物との間に生じる緊迫した関係性を予言しているといえる。 最新の研究によれば、米国の地方部では鹿狩りのシーズンが始まると、実弾を装填済みの銃がケーブルロックやトリガーブロックを掛けないまま民家や車の中に置きっぱなしにされることが多くなり、これが銃撃による負傷や殺人の増加につながっている可能性が高いという。 研究論文の筆頭著者で、都市社会学と犯罪学を専門とするプリンストン大学のパトリック・シャーキー教授は、「狩猟期間の最初の1週間には、その年のどの週よりも多くの人が銃撃で命を落としている」と述べている。 この研究では、狩猟中の事故に関連した銃による死亡を除外した。そして、装填された無施錠の銃が入手可能なことが、銃を使った暴力のリスク増加につながっていることを発見した。 シャーキー教授と研究チームは、全米44州にまたがる農村部854郡で2014~21年に発生した銃発砲事件について統計を調査・比較した。すると、各郡の鹿狩り解禁日から1週間以内に起こった発砲事件の割合は、解禁前の1週間と比較して平均49%も急増していることがわかった。解禁2週目も41%増だったが、同3週目には増加率は「ほぼゼロ」になった。 シャーキー教授らによると、たとえばウィスコンシン州では「鹿の年間捕獲数の70%が狩猟期間の最初の9日間に捕獲されている」とのデータがあることから、鹿狩りシーズンの最初の3週間における発砲件数の急激な増減は驚くに値しないという。 ただし、こうした発砲件数の傾向は「(まれに起こる)狩猟中の事故を分析対象から除外しても、ほぼ再現された」と教授らは記し、発砲の大部分が対人暴力であることを示唆している。研究チームは、州や郡によって異なる狩猟期間の正確な開始時期が、発砲件数の急激な変化と関連している点を指摘。銃を使った暴力事件の増加と、鹿狩りシーズンの到来に伴って装填済み・無施錠の銃に手が届きやすくなったこととの関連性を示す追加的な証拠だとしている。 この発見を裏付けるため、教授らは人口当たりの狩猟免許数で州を層別化し、狩猟人口の多い州ほど発砲事件の発生がより顕著であることを発見した。これは、農村部では鹿狩りシーズンが始まるたびに、散弾銃を所持した男の検挙率が300%増加していたとの過去の研究結果とも一致する。 これらの証拠から、シャーキー教授と研究チームは「鹿狩り解禁直後の1週間に発砲事件が増加する最も妥当な説明は、公共の場や私的空間において銃器の存在感が増すためだと結論付けられる」と述べている。 とはいえ、狩猟解禁後の数週間に人々が殺し合うのは仕方ないことだと諦めるのはまだ早い。シャーキー教授と共同研究者たちは、たとえば「鹿狩りが特に盛んな州で銃規制を強化し、銃器の保管・携帯・購入をしっかり管理すれば、狩猟期間の始まりに伴って発生する発砲事件の数を減らすことができるかもしれない」と提案している。 出典:Patrick Sharkey, Juan Camilo Cristancho, and Daniel Semenza (2024). Deer Hunting Season and Firearm Violence in US Rural Counties, JAMA Network Open 7(8):e2427683 | doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.27683
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