「子供なんか産まないほうがいい人間に限って軽々しく子供を産むんです」スーパータブーといわれる「児童養護施設」を漫画の題材にした理由
政府の無責任さに対しての抗弁
ーー児童養護施設の職員が児童へのわいせつ事件を起こすことも少なくありません。 もちろんそこも触れていかなければいけないところです。職員に小児性愛者が紛れ込んでいることや、ボランティアと称して介入してくる人たちの一部が、「子どものため」と言いながら私利私欲のために利用している事実もあります。具体的には、未成年の子どもを自身の勤務先の保険に加入させたり、卒園した子どもに物を買い与えて、愛人のように連れまわしているといった情報も、複数の市民から寄せられています。そういった問題点は、なるべく早めに取り上げたいと思っています。 先日も北九州のある児童養護施設の職員が、小学生の女の子に対する性的姿態等撮影未遂の疑いで逮捕されました。今年6月には日本版DBSを導入するための法律が成立しています。本来なら施設のトップが使用者責任を問われ、監査・指導権限を持つ行政が特別指導監査を行なってもおかしくないですよね。でもそんな動きは一つもありません。 ーー子どものことに本気で取り組んでいる職員というのは、多くないのでしょうか? 誰もが「子どものため」とは言いますが、本気で、それこそ「自己犠牲を払ってでも」と取り組んでいる職員は、そうはいません。そういう職員は子どもに厳しいことも言うし、お菓子やゲームで懐柔しようとしないので、煙たがられることもあります。でも、その真剣なごく一部の人たちによって施設は成り立っています。 私が理事長を務める施設でも、人が足りないとなれば代わりに出勤して、「いつ行ってもいるな」という職員がいます。労働環境がよくないのでは? という人もいるでしょうが、私からすれば、こういう人材こそが「宝」ですよ。そもそも、親の代わりを務めるとは、そういうことではないでしょうか。 ーー5月17日に、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」を可能とする改正民法が成立し、2年以内に施行されることになりました。施設運営にもなんらかの影響が考えられますか? 今は行政の動きを待っています。ただ、この民法改正は子どもたちの境遇が変わるようなものではまったくないですね。この民法改正で行政機関が楽をできるようになったな、というのが正直な感想です。 2016(平成28)年の改正児童福祉法で、「家庭養育優先原則」が定められ、まずは親元に戻せるようにするのが基本です。それがだめなら、里親やファミリーホームヘの委託、その先に、児童養護施設の選択があります。その方向を進めていくのであれば、彼らにとって今回の民法改正は非常に使い勝手がいい。例えば、被虐待児の介入に消極的な理由を、「両親の同意が取れないから」という言い分でごまかすこともできてしまう。彼らはいつも「法律だから」「ルールだから」というもの言いをしますからね。 ただ、当然ながら家庭に戻すわけにはいかない子どもというのももちろんいて、そういった子どもはやっぱり施設で取り組んで安心安全に育てなきゃいけない。その意味では、この漫画は役所が推し進める「家庭養育優先原則」に逆行しています。それは、重度の精神疾患患者を自己責任として地域移行へと舵を切った精神科医療の現状(『子供を殺して』)とまったく同じ構造で、政府の無責任さに対しての抗弁でもあります。
人材こそが「子どものため」といえる施設の基盤
ーー取材方針も含めて、今後計画していることはありますか? 今は、運営に携わっている児童養護施設で起きた諸々の問題の、後片付けと立て直しに取り組んでいる状況です。結局は「人」ですから。今は労働者の権利ばかりが主張されやすい時代ですが、人間に携わる仕事には、不確定要素しかないんです。何かあったときに、自分の都合や予定を飛ばしてでも向き合ってくれる人材をどれだけ集められるか。それこそが、真に「子どものため」といえる施設の基盤になるはずです。 これからも漫画で児童福祉をとりまく現状を周知させながら、同時進行で具体的な施策を進めていきます。 取材・文/森野広明
集英社オンライン
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