出荷量減が続く「泡盛」 売上高1.3倍を実現した、酒造所30代社長の「売り方」改革
74年前に始まった酒造りの「原点」こそが、厳しい状況に直面する業界で生き残る鍵となる──。 【画像】やんばる酒造の主力商品である「まるた」、泡盛の発酵状態、やんばる地域の人たちと共に開発した「やんばるつながリキュール スパイシーセッション」(計5枚) 「やんばる」と呼ばれる沖縄本島北部の雄大な亜熱帯林の中に蔵を構える「やんばる酒造」。沖縄のスピリッツ(蒸留酒)である泡盛の酒造所の一つだ。 立地する大宜味村は2016年に「やんばる国立公園」に指定されたエリア。周辺の山々が育む豊かな湧き水を洗米やもろみ造りに活用し、終戦から間もない1950年の創業以来、変わらない伝統製法を貫く。経年における淘汰の中で、現在は沖縄本島最北端の泡盛酒造所となっており、自社銘柄の「まるた」や「山原(やんばる)くいな」は大宜味村に限らず、周辺の国頭村や東村も含めて地酒として愛される。 近年は、定期的にやんばる好きな県外の人と交流を深める仕組みをつくったり、農家らと協力して泡盛を使った地元ならではのリキュールを開発したりして、地域密着にこだわりながら新たなファン層を獲得している。 従業員8人という小さな酒造所だが、直接販売の割合を高めてより足腰の強い経営体制を構築。その結果、コロナ禍で年間6000万円ほどに落ち込んだ売上高は8000万円まで回復した。 仕掛け人は、30代の若き経営者として家業を引っ張る5代目代表の池原文子社長。沖縄全体として出荷量の著しい減少が続く泡盛業界で異彩を放つ取り組みを取材した。
知名度は高いのに、進む「泡盛離れ」 赤字経営の酒造も
沖縄で600年以上にわたって作られ続け、日本最古の蒸留酒とされる泡盛。原料は主にタイ米で、米を黒麹菌で米麹にし、水と酵母を加えて発酵させる。この工程は「全麹仕込み」と呼ばれ、一般的な焼酎のような2次仕込みはない。時間をかけて寝かせ、熟成させていくことでより風味やまろやかさが増す「古酒(くーす)」という飲み方の文化も魅力の一つだ。 小さな離島県にもかかわらず、広い海域に点在する離島を含めて今も40以上の酒造所が県内各地で泡盛作りにいそしむ。豚肉をメインとした沖縄料理との相性が良く、県民のみならず、観光客からの認知度も高い。 ただ、業界の現状は厳しい。 沖縄県酒造組合の統計によると、沖縄で生産された「琉球泡盛」の年間出荷量は最多だった2004年の2万7688キロリットルからほぼ右肩下がりを続け、直近の2023年は1万2865キロリットルとピーク時の半分を割り込んだ。酒業界全体に言える課題ではあるが、若者のアルコール離れや、種類の多様化による競争激化などが主な要因だろう。 今年5月からは、1972年の沖縄の日本復帰から半世紀に渡って続いてきた泡盛の酒税軽減措置の段階的な縮小が始まっており、2032年には完全に廃止される。円安や原材料の高騰も進む中、大半が小規模事業者である酒造所は赤字経営に陥っているところも多い。