[写真]アイメイトになる犬は十分な資質を備えた血統のラブラドール・レトリーバー

　来年2017年は、我が国で初めて盲導犬が誕生して60年目に当たります。しかし、その歴史が半世紀を超え、存在がある程度社会に認知された今もなお、「入店拒否」の報告が少なくありません。入店拒否とは、盲導犬同伴の視覚障害者が、犬の存在を理由にレストランなどへの入店を断られることです。60年前に国産盲導犬第1号『チャンピイ』を生み出した育成団体（公財）アイメイト協会の最新のアンケート調査では、約8割の現役アイメイト（同協会が育成した盲導犬の独自の呼称）使用者が、入店拒否を経験したことがあると答えています。また、電車やバスなどの公共交通機関の「乗車拒否」は減りましたが、タクシーでは今だに事例が報告されています。 　盲導犬の入店は、2002年施行の「身体障害者補助犬法」により、断ってはならないとされています。さらに、今年4月施行の「障害者差別解消法」では、盲導犬を理由とした入店拒否は“間接差別”だと明言しています。とはいえ、これらは強い強制力のある法律ではなく、施設・店側の特有の事情など、ケースバイケースで個別に考慮されるべき状況もあるでしょう。この問題は「法律があるから入店させろ」というような単純なものではありません。表立って語られることの少なかった「入店拒否」をめぐる60年の歴史と現場の声、アイメイト・盲導犬の実態を理解した上で、初めて打開できるものです。 　本稿では、前後編に分けて、それらをできるだけ丁寧に解説したいと思います。前編では初期の使用者の努力や歴史を追ってきましたが、この後編では現状を中心に俯瞰していきます。（内村コースケ／フォトジャーナリスト）

ほとんど無駄吠えしないアイメイト

[写真]ナイルレストランで。アイメイトは使用者の足下で静かに伏せている

　アイメイト使用者にとって、アイメイトは個別の人（犬）格を持った「パートナー」であると同時に、使用者自身の「目」でもあります。そこが、ペットの犬とは決定的に違う所です。ですから、多くの使用者は入店拒否に遭った際に「自分自身の存在を拒否されたと感じる」と述べています。 　とはいえ、今時悪意や明確な差別意識を持って入店拒否をしているケースは多くはないと思います。ほとんどは「無知」によるものでしょう。一方で、受け入れる側にだって都合があり、相応の理由があるはずです。レストランの場合を考えてみましょう。犬が入店した場合にお店側が懸念するのは、第一に「犬が食べ物に関心を示す」ことではないでしょうか。例えば、隣のテーブルの上の料理にペロッといったら目も当たられませんね。また、興奮して吠えたら他のお客さんに迷惑です。毛が飛び散ることも衛生面の懸念や、スタッフの後片付けの手間を考えると避けたいところです。