〈追悼・篠山紀信〉「俺に撮るなって言ったのは、お前が初めてだぞ!」40年来の友・立川直樹が明かす「撮影秘話」
「立川というヤツは、ひどい人間ですよ!」
その後、僕が頼んだことは結構面白がってやってくれた。1987年にキリンプラザ大阪ができて、そこでいろんな人の展覧会をやったんだけど、横尾忠則さんもやって、赤塚不二夫さんもやって、それで篠山さんもやることになって「写真小僧展」をやった。 その準備をしている時に、壁一面に6人の女の子のヌード写真を展示する作品があって、それがなんと測り間違えていて写真が入んない。ちょうど1人を切っちゃえば、ピッタリそこに収まるような感じだった。 展覧会の担当者が「どうしましょう?」って言うから、そこで僕は「いいよ、切っちゃえば!」って言って。「えっ、篠山先生の写真ですよ」「でも、しょうがないじゃん! 入んないんだから」って言って。「責任は俺が取るから」って言って、結局切っちゃった。 その頃くらいになると、篠山さんも僕のこと信用してくれていたから、準備段階では見に来ない。本番のオープニングレセプションの日の朝に来て、会場を見て回って、「おお、いいじゃん」とかって言っている。もう本人はモデルの女の子が6人だったか5人だったかなんて覚えてなかったんだと思う。 それなのに当時のアシスタントが「先生、これ6人いませんでしたっけ?」って言っちゃった。そしたら、パッと僕の方を見て、顔がキッとなって「お前、切ったのか!?」って(笑)「すいません、切りました」って言ったら、「お前の悪いところはそういうところだぞ!」って言って、また口聞かなくなっちゃった。 それで、オープニングレセプションが始まって、館長の挨拶が終わって、司会の人が「では、本日の主役であられる篠山先生のご挨拶です」って言って、篠山さんが壇上に立っていきなり開口一番「篠山です。それにしてもこの立川という人間はひどいヤツですよ! 僕の作品を切りやがって!」って言って、僕のことをダシにして大爆笑をとっていた。あれも面白かったな。 後編記事『〈追悼・篠山紀信〉「カメラマンっていうのは泥棒なんだよ!」“時代”を撮り続けた写真家の、知られざる “食”へのこだわりと人柄』では、篠山氏の知られざる “食”へのこだわりと、人柄について語ってもらう。
立川 直樹(プロデューサー/ディレクター、音楽評論家)