経済格差の実態を〝地方と都会〟から描く 重厚な社会派作品「リキシャ・ガール」と「シティ・オブ・ウインド」
【アジア映画の覚醒~コロナ禍からの反転攻勢~】 「映画は社会の鏡」とよく言われる。アジアの経済格差の実態を〝地方と都会〟というコントラストからスクリーンに力強く活写する重厚な社会派作品が相次いだ。 バングラデシュの「リキシャ・ガール」は地方都市でアルポナ(バングラデシュの伝統的床絵)を描く少女ナイマ(ノベラ・ラフマン)が主人公。父が病気でリキシャ(人力車)をひく仕事ができなくなり、家族の生活が困窮。ナイマは家族のために首都ダッカへ出稼ぎに行き、リキシャの仕事を始めるが…。 リキシャの語源は日本の人力車。昨年、ユネスコの無形文化遺産にダッカのリキシャとリキシャ・ペインティング(リキシャに描かれた絵画)が登録された。 貧富の差の象徴としてリキシャをテーマに選んだオミタブ・レザ・チョウドゥリー監督は初来日し「日本とバングラデシュの関係を伝える貴重な文化であることを知ってほしい」と呼びかけた。 リキシャが山道を走る田舎ののどかな光景から一転。ナイマがスーツ姿の客をリキシャに乗せ、自動車の行きかう大都会ダッカを走る光景は衝撃的だ。急激に近代化するバングラデシュの今をスクリーンに映し出す。 モンゴル映画「シティ・オブ・ウインド」も、格差社会の実態を地方と都会の対比で浮き彫りにする。 男子高校生、ゼが主人公。ゼはシャーマンとしても知られ、知人から病気の祈禱(きとう)などを依頼されると出掛け、呪術の儀式を行っていた。近代化するウランバートルには、高層ビルが林立。一方でいまだゲルで暮らす人々とが混在する。 「現在、モンゴルではゲルは貧困層の住居と思われていますが、私は伝統を残すためになくしてはならない大切なものと考えています。シャーマンも同じです」とコンペ部門で見事、グランプリを受賞した女性監督、ラグワドォラム・プレブオチルは語る。 ゲルの集落越しに見える摩天楼…。ワンショットで、モンゴルが抱える貧富の現状を切り取る手腕は、グランプリにふさわしい。 (波多野康雅)