子どもの「やりたいこと」をさせてあげられない…じつは経済的理由だけではない「体験格差」の現実
習い事や家族旅行は贅沢? 子どもたちから何が奪われているのか? 低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。 【写真】低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」の衝撃! 注目の新刊『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。1年契約の不安定な仕事で働きながら二人の子どもを育てている小西尚子さんのエピソード後編(前編はこちら)。 *本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。 ──仕事の収入以外に行政からの手当などは受けていますか。 児童扶養手当があります。前は全部支給だったんですけど、今の仕事になってから一部支給になりました。 あとは児童手当で、「児童手当は全部進学のために貯金したほうがいい」と本で読んだので、貯金に回しています。本の情報ばっかりで……。ほかの家がどんな感じかわからないんですけど、ほかの家と同じくらいは貯めたいです。多分無理だけど……。 ──そういった情報についてやりとりできる人は周りにいますか。親御さん同士でのやりとりなどがあるでしょうか。 そういう人は一人もいないんです。相手がどんな状況かわからないので、色々と聞いたら傷つけたり、つらい思いをさせたりとかもあるかなって思うと、あまり踏み込めなくて。だから、一番知りたいことは聞けないです。友達はほしいんですけど。でも……。 お金のことを勉強できる機会があったらいいなと思います。漠然と不安だけが募っている感じなので。高校に入学するときに私立ならいくら必要、県立ならいくら必要というリアルな数字が知りたいです。どこを目指せばいいのかわからないまま、ずっと走り続けてる感じなんです。 子どもたちが進学するときにお金のせいで我慢するんじゃなくて、自分が行きたい学校に行けるようにって。その邪魔になりたくないので。県立に行ってもらえたらと思ってはいるんですけど……。 ──事前に想定していたよりもっとお金がかかってしまうことへの不安でしょうか。 いや、もうちょっと少なくて済むんじゃないかなという気持ちもあって。こんなに必死になってやらなくていいのかどうなのかがわからないんです。 こんなにキツキツにしなくていいのか、それともこれくらいはがんばらないといけないのか。それがわからないのにがんばるっていうのがしんどいですね。もし今節約しすぎていて、それで子どもにも迷惑がかかっているとしたら改善したいです。 有期雇用で不安定ですし、養育費も最近振り込まれなくなってしまったので、お金は貯めれるだけ貯めようみたいな感じになっています。 ──子どもたちにさせてあげられていないなと感じることはありますか。 上の子は「こどもちゃれんじをやりたいな」と言っていました。まだ離婚する前に一度やっていたことがあって、それでもう一回やりたいって。でも、払うのが大変ということもあるし、続くかもわからないからと言って、ちょっとやめておこうと。 今は私と一緒に勉強しようと言って、本人も納得してくれてる感じです。でも、相手のことを考える優しい子なので、私を困らせないようにと思って言っていないだけかもしれませんね。本当はいろんな思いがあっても。 学年が上がって、だんだん問題が難しくなってきて、算数でも漢字でも、テストでうっかりミスが出たり、授業だけではまったくわからないことも増えてきているんですね。今はまだ小学生なので、私が自分で教えられる範囲ではあるかなと思って、仕事の昼休憩の時間に本を読んで、勉強の教え方を学んだりしています。 弟は「バスケがやりたい」と言ってましたね。クラスで仲のいい子がバスケをやっていて。あと「スラムダンク」を見てかっこいい、やりたいって。 バスケのクラブは週に2回、平日の夜に学校の体育館でやっているみたいなんですね。体力が余ってる感じもするので、やらせてあげたいんですけど、経済的な理由と、時間的な問題でできていなくて。 ──お金以外の理由もあるんですね。 4時半に仕事が終わって、スーパーで買い物をしたりして、5時半ぐらいに家に帰ってきて、急いでご飯をつくって食べさせて、練習に連れていって、2時間ぐらいしたらまた迎えに行って、お風呂に入れて……、とやっていると、ちょっと私の体がもたないなと思っています。 親が二人いたら、色々と手分けできるんですけど、一人だとそれができない。全部自分でしなきゃいけないので。 だから、下の子はウズウズしていると思うんですけど、「バスケはちょっと待って」と言っています。もうちょっと大きくなって、次の日の学校の準備とか、自分のことがしっかりできるようになってから、それでもやりたいと言ったらやらせてあげようと思って。 お店で売ってたバスケの小さいゴールを買って、家の壁に取り付けてあげました。今は毎日それで遊んでいます。 ──職場から帰ってきても、家でもずっと別の仕事が続きますよね。学校が終わった後、小西さんが家に帰ってくるまでの間は、子どもたちはどうされていますか。 学校が終わったらそのままほかの子たちと学童に行っています。でも、上の子は今年から定員オーバーで学童に入れなかったんです。同じ家庭の子どもでも、大きい子のほうが保育が必要な度合いが低いということで点数が低くて。だから、家で待っている感じです。 ──お金の優先順位として、子どもの体験にかかるお金と、子どもの勉強や進学にかかるお金とを比べるとどうでしょうか。 やっぱり勉強にかけたほうがいいなと思います。体験のほうは、無料で参加できるイベントに応募している感じです。色々なことを体験するって、子どもの成長にとってはすごく大事なことですよね。でも、今はそれが後回しになってしまっているかもしれません。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)