2DドットRPGがいきなり “農業ゲーム化” したことで話題を呼んでいる『Eastward』の拡張DLCで「田舎暮らし」をしてみた。イベントやクエストなど「やるべきこと」が常に明示されているため “目的迷子” になりにくい
今回のレビューは、1990年代の日本アニメーションの空気感と細部まで美しく描かれたビジュアルが話題を呼んだ2DドットRPGゲーム『Eastward(イーストワード)』の拡張DLC「Octopia(邦題:よみがえれ!カモメ町)」である。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 初めて編集部からこのお話をいただいたとき、私はかなり焦った。なぜなら本編未プレイという状態だったのである(一応DLCを遊ぶ上で本編も触った)。しかしその心配は杞憂だったことをまずはお伝えしておこう。 じつは今回配信されたDLCは、本編とは独立した「全くの別ゲー」として生まれ変わっている。ゲーム体験はアクションアドベンチャーからまさかの「農業ゲーム」へと様変わりし、プレイヤーは武器を振るう代わりに農具や釣り竿を振るい、作物を育てたり釣りに出かけたりなどの穏やかな生活を過ごしてゆく。さらに舞台は本編から切り離された完全なパラレルワールドとなっており、『Eastward』の体験をDLCから始めることだって可能だ。 アクションアドベンチャーから農業ゲームに生まれ変わったというだけでも興味深いが、何よりも驚くべきことは、農業化してもなおゲームのエッセンスとなるアドベンチャー的特色は失われていないことだ。本作は農業ゲームだが、ゲーム全体のテンポ感は良い意味で「農業ゲームらしくない」のである。 間断なく与えられる「ミッション」や非常に速いペースで増え続けていく「個性豊かな隣人たち」など明確な導線が用意されており、本作は農業ゲームでありながらストーリー型のアドベンチャーゲームを遊んでるかのような不思議な感覚を与えてくれた。 それでは前置きはここまでとして、ストーリーも舞台も本編とはほとんど異なる異色のDLC「Octopia」がどのようなゲーム体験を備えているのかを紹介していこう。 文/植田亮平 ■美しいカモメ町を舞台に、ぽかぽか農業アドベンチャーが始まる 今回配信されたDLC「Octopia」は、アクションアドベンチャーである本編とは打って変わり、非常にほのぼのとした農業ゲームである。プレイヤーは主人公のジョンとなり、相棒である珊(サン)ときままな田舎暮らしを過ごしていく。 やはり何と言っても最初に言及すべきは、その圧倒的なグラフィックの美しさだろう。本編発売時から既に何度も言及されている部分ではあるが、初めてプレイした際にはこの点について私もとても感動した。画面の中に緻密に設計され描かれたドット絵は色彩もアニメーションも素晴らしく、おそらくここ数年のインディータイトルの中でも群を抜く完成度だ。各ロケーションには往年のゲームへのリスペクトを感じさせる要素もあり、「ドット絵目当て」での購入も悪くないだろう。 また、音楽面についても非常に素晴らしいものとなっている。各シーンで流れるBGMは夏の田舎町で過ごすような穏やかさを持ち合わせており、その中で各キャラクターの会話SEや効果音が映えるように設計されている。特に本作は本編と比べても登場キャラクターがそれほど多くない(ように見受けられる)ので、会話時に流れる”声”のSEはキャラクターを特徴づけるものとして上手く機能している。 以上、本作の「素材の良さ」について改めて確認したところで、ここからは目玉となるゲームシステムについて語っていこう。 先ほども述べたように、本作は農業を中心としたライフシムがベースのシステムになっている。ゲーム内で敵となるようなものはなく、ゲームを進めるうえでプレイヤーはひたすら野菜を育てたり、家畜を飼育したり、町民たちと暖かなご近所付き合いを営んでいくこととなる。まさに「アクションアドベンチャーが農業シムに!」という点が最も大きなポイントだろう。 しかし農業シムとは言っても、本作の作りは至ってアドベンチャー的である。その理由は「常に明確な導線が引かれている」ことに起因する。 私のイメージでは、農業シムといえばゲーム上の目的をプレイヤーに委ねている印象があった。チュートリアルが終われば基本的にはゲーム側がプレイヤーを放り出して、そこからプレイヤーは自由という名の荒野に取り残されることになる。全てがそのようなシステムではないし、どのようなゲームにも多少の導線は用意されていると思うが、とりわけ自由が高い農業シムであるほど、上記のようなものになっている印象だ。 一方で、本作のシステムはかなりアドベンチャー寄りである。基本的に何かしらのイベント(これはほとんど「クエスト」と同義のもの)が起こり、プレイヤーはそれをこなしていくことでゲーム中のモチベーションとシステムへの習熟を同時に満たすことができる。そして基本的に、この「始まりから終わりまで何かしらやるべきことが明示されている」という状態が、私にとってはかなり嬉しい仕様だった。 ここであえて断っておきたいことだが、このシステムはかなり好みに左右される面があるだろう。本作のシステムは良く言えば「ダレない・混乱しない」ものだが、プレイヤーが自由に町づくりをしたり経済を発展させていくというような、エンドレスコンテンツが用意されていると思って遊ぶと印象が異なる。 しかし、私のように農業シムにおける「迷子感」に混乱してしまうゲーマーにとって、本作は非常にありがたいものとなっていた。もちろんゲーム上の寄り道ややり込み要素は多く用意されているので、そういったプレイが好きな人が楽しめる余地は存分にある。ただ、やはり本作のシステムを総括するのであれば、「農業シムの流れでストーリーが進んでいくアドベンチャーゲーム」と表現するのが最適ではないかと思われる。 ■パラレルワールドであることの安心感 本編をクリアしていないため詳しいことは分からないが、DLCに登場するキャラクター達は本編にも登場するキャラクターが多い。しかし、DLC作中では彼らは基本的に「主人公と初対面の個性的な人々」として登場する。 冒頭にも述べた通り、DLCの世界は本編とは完全なパラレルワールドとして存在している。主人公とは知り合わなかった世界線のキャラクター達ということで、本編を遊んだ人にとっては非常に美味しい設定(これは私が個人的に好きなだけかもしれないが)となっているわけだが、本編を遊んでいないからと言ってその魅力がなくなるというわけではない。 私は『Eastward』をDLCから遊び始めたが、その私にとっても彼らは非常に魅力的な存在となっている。無口な都会のインフルエンサー、ロボットの親方にこき使われる愛され兄弟、兄を探して旅するロケットパイロットなど、何もないカモメ町を人一倍盛り上げてくれる住人がゲーム中ことあるごとに登場する。 むしろ「彼らは本編ではどのような役割を担うことになるのだろう」という想像をするだけで、そのキャラクターがより一層魅力的に見えてくる。DLCではその世界に対する言及はほとんどなく、基本的に物語は全てカモメ町内部で完結しているのだ。 また、キャラクターが全て初対面であり、主人公とプレイヤーの視点がゲーム内で同一となっている点も、プレイ時の新鮮さを保つ役割を果たしているように感じる。 ゲーム側から「あっ、ここの部分は本編を参照してくださいね」というメッセージが何も登場しないというのは、DLCから始めた私としては非常に気分よく遊ぶことができるものだった。あるいは、開発側もそういったプレイヤーを想定しているのかもしれない。何度も書くようだが、本作はDLCから始めても十分に楽しめるように上手くストーリーテリングされているので、興味を持った方はどちらから始めても問題ないだろう。 ■農業を通して感じたDLC哲学 DLCを遊んだ後に本編に触れて驚いたことだが、本DLCは実はかなりの部分で本編のシステムやUIをそのまま流用している。つまり、ゲーム的に根本的な部分を変えず、上手くアクション部分を農業システムに最適化しているということだ。 例えば、本作の体力と食事システムについて言えば、「自分で料理を作って食べることで体力が回復する」という部分は本編・DLCどちらにも共通しているが、DLC中の体力減少は敵とのバトルで生じるダメージではなく農作業中での「疲れ」として表現され、料理は体力回復アイテムである以上に物語を進めるためのクエストアイテムとして登場する。クエストの中で住民たちが要求するアイテムは料理がほとんどであり、逆に言ってしまえばDLCのゲームプレイは一貫して料理のための行動となっている。 かように、本編ではゲームプレイの “いちスパイス” として機能していたものが、DLCではゲームのメインコンテンツとして改造されているのである。この最適化が全体としてどれほど行われているのかを詳しく分析することは出来ないが、それにしても本DLCの完成度は目を見張るものがある。 そしてこれは個人的に良いと感じた点だが、この「元は農業シムではない」ということがむしろゲームの快適性に貢献していると思われる部分もあった。 中でも特徴的なのは、岩や木といったいわゆる資源系のオブジェクトが、単体の道具で両方にアクセス可能になっている点だ。農業シムを作ろうとなった場合、恐らく普通のゲームデザイン的な観点で言えば「木は斧で、岩はピッケルで」というふうに、獲得できる資源によってその採取方法を限定させるはずだ。少なくとも私ならそうする。しかし、本作はあえてそうはせず、どのような資源であっても斧か手袋を装備すれば採取可能になっている。 これは完全に私の主観だが、最初から農業シムとして本作を作ろうとするなら、恐らくこの仕様にはならなかっただろうと思う。あくまでアクションアドベンチャーという強固な「下地」があり、その延長として本DLCを制作したからこそ出来たものだろう。 こういったある種のミニマルさが垣間見える点は、DLCならではの体験である。「本格的に、だけどやりすぎず」というDLC哲学を学ぶには、本作はうってつけの教材なのではないだろうか、というようなことを偉そうにも考えてみた(どうもすみません)。 しかし、そのようなことを考えさせられるというようなゲームデザイン上の深みを、「Octopia」は確かに持っている。 美しいグラフィック、暖かで個性豊かなキャラクターたち、アドベンチャーから発展した農業システムなど、これ単体でも魅力的なものが多く揃っているゲームとなった「Octopia」。これほどのクオリティを持つゲームの本編がどのようになっているのか……。多くの期待を込めて、これから私は『Eastward』を遊んでいこうと思う。
電ファミニコゲーマー:
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