「原因は、あなたですよ」野村克也が阪神オーナーに直言…監督付になった球団職員「ああ、これでタイガースは強くなる」3年連続最下位に隠された真実
野村がオーナーに直言「真っ赤な顔で『言ってやったよ』と…」
夏場からの失速はまさにタイガースの選手層の薄さ、編成面での脆弱さを露呈していた。そして2年目、2000年の夏。あとから振り返ればタイガースにとって転換点だったと思える出来事があった。 オールスター開催期間中、オーナーの久万俊二郎と野村が梅田のリッツ・カールトンの一室で会談をした。嶌村は電鉄本社の秘書とともに隣室で待機していた。 「2時間過ぎても終わる気配がない。3時間近くしてようやくオーナーが出ていかれて、部屋に入ってみると監督が真っ赤な顔で『言ってやったよ』と……」 嶌村には何を言ったのかすぐに見当がついた。だからソファにぐったりともたれて激論の余韻を残す野村に頭を下げた。 「監督しか言えないことです。ありがとうございました」 後に野村が著書で明かした久万への直言は概ね以下のようなものであった。 『エースと4番は育てられない。出会うものなんです。チームの中心となる選手をなぜ獲得しようとしないのか。野球は監督の首をすげ替えただけでは勝てません。球団の編成部が中核なんです。この球団が勝てない原因はオーナー、あなたですよ』 球団編成のエキスパートを育てようという人事がみられるようになったのは、それからしばらくしてからのことだった。
野村に言われた“たった一言”の勲章
3年目、2001年はシーズンの途中でグラウンド外での雑音が大きくなってきた。いわゆる脱税問題である。 あるとき嶌村は、久万から個別に呼び出された。電鉄本社の会長室。普通ならば、係長クラスが足を踏み入れることのできない領域である。部屋に入るなり言われた。 嶌村くん、君の立場で野村監督の擁護論を展開してみてくれ。 組織の雲上人に向けて嶌村は2時間近く訴え続けた。このままいけばタイガースは必ず強くなります。ゼロから良い人材を育てているところなんです――。 夢中で話し終えると最後に久万が言った。ようわかった、確かに君の言うことは理にかなっている――。覚えているのはそれだけだ。野村にはその一件は伝えなかった。 野村の続投が発表されたのは、それからまもなくのことだった。ただし、脱税問題の結末次第ではあったのだが……。 シーズン後半から秋のキャンプにかけて周囲の雑音は大きくなり、野村の側にいるのは本当の意味でその野球に心酔する人間だけに限られていった。そんなある日、野村がふと嶌村にこんなことを言った。 『お前みたいのがおってくれてよかった。本気で俺のことを考えてくれて、俺に来季もやってほしいと思ってくれてな。何も言わなくても行動を見てたらわかるんや』 あの独特の低い声でボソッと発したその言葉を嶌村は今も握りしめている。 「私の勲章です。たった一言でいいんですよ。人間っていうのは……」
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